BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『犬神家の一族(1976年版)』-201027。

英題:The Inugamis
市川崑 監督
長田紀生日高真也市川崑 共同脚本
横溝正史 原作
1976年、日本

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良い予告動画がうまく探せなかった。

このポスターはカラーコーディネートがしゃれてるし
スッキリ整然とした印象で、自分としては結構好きだ。
『病院坂・・・』のやつとかは中学校の美術部の子が
描いたみたいだった・・・

何度観てもおもしろいわ。
話としてはメチャクチャな部分もあるが
原作の小説からして割とそういう所はあるし
そこも、このシリーズの魅力のひとつなのだ。

湖に打ち捨てられた死体が
さかさまの状態で徐々に浮上してくるシーンの
音楽、スゴくカッコイイ。

那須ホテル」の、おはるちゃん(坂口良子)の
可愛らしさは重要文化財級だ。
2006年のリメイク版の深田恭子もかわいかったけど
やっぱ坂口良子のおはるちゃんはスゴイわ。
坂口杏里さんは若い頃のお母さんにそっくりなんだなあ。

野々宮珠世は、わたしは2006年のリメイク版の
松嶋菜々子の方が好きではあるが
76年版の島田陽子もすてきだと思う。お肌がきれい。

佐兵衛翁という人物については、
原作も映画も、描き切っているとは言えないよなあ。
佐兵衛翁の往時にスポットを当てると
これはこれでめちゃくちゃおもしろい話になると思うが・・・
でも、男の心の中をおしはかりたければ、
その男の行跡をみるしかないのかもしれない。
横溝正史も、市川崑監督も男なので、
「男ってのはそういうもんなんだ」
って感じだったのかも。そう考えると
ジェンダーうんぬんの話をしたいわけではないのだが、)
女性の監督のリメイクによる『犬神家の一族』、
あるいは犬神佐兵衛に焦点を当てたスピンオフとか、
観てみたい気もしてくるなあ・・・

おなかの子の父親を失うこととなった小夜子が
巨大なカエルを胸に抱いてなでなでする・・・
犬神家の一族』で描かれるこのシーンは
精神の均衡を崩した若い女性、の描写として
あまりに劇的で、一度観ると忘れられない(笑)
こんなシーンはもう今の映画では、ありえない(笑)
小夜子はその後どうなったのかな・・・、と
この映画を観るといつも思う。

小夜子と言えば、
佐兵衛翁の遺言書が開示されるシーンで、小夜子が、
「ひどい! あたしのことなんか何にも書いてないじゃない!」
と泣き叫びながら、部屋を飛び出していくシーンは
確か、原作小説にはなかった所だと思う。
そもそも市川崑監督の金田一耕助シリーズは、
なにしろキャラクターたちが超エモーショナルで、
すさまじいまでにオーバーアクションなのだが、
そのオーバーアクションの理由が、かなりわかりにくい。
「何を思ってそんなに大声で叫ぶのか」とか、
キャラクターが言葉で説明してくれない時が割とある。
例えば『犬神家の一族』でも、菊人形の所で、金田一
「ぎゃあ~!」と叫んで、頭を抱えて、地面につっぷす。
犬神家の家中の者がそうするならまだわかるのだが
果たして部外者の金田一があんなに取り乱す理由があるのか、
正直あの場面の金田一の反応は何度観ても理解に苦しむ。
確かにあの生首は、非常にショッキングではあると思うが、
金田一はそこらの人よりはずっと、人間の他殺体、
それも惨い殺され方をした死体を見慣れているはずだし
あんなに叫ばなくたって良いんじゃないだろうか(笑)
終盤で、佐清が、腰かけていたイスから崩れ落ちて
床に寝っ転がったまんまオイオイ泣くシーンとかも
・・・イヤ、まあ、あれはまあ、良いか・・・
ともかくそんな感じで 市川崑金田一シリーズは
なんか、キャラクターたちのオーバーアクションの理由が
正直良くわからない、ってことが結構ある(笑)
言葉による説明がなくても観ていればわかるのであれば
わたしも文句はないのだが、
だいたいのところ、観てても良くわからない(笑)
時に唐突なタイミングで、クスリやってんのかというくらい
オーバーな感情表現が、あっちゃこっちゃで繰り出される。
・・・でもそこへきて、本作の遺言書の場面での小夜子は
「私は、おじいさまの遺言書に自分についての言及がなかった
ことに、怒り、ショックを受け、悲しんでいるのです!」と、
はっきり説明したうえで、ああしてワンワン泣いてくれる。
わかりやすい(笑) 
みんなこの時の小夜子くらいちゃんと説明してくれればねえ。
あんなに泣くほどのことか、と言いたい気持ちはあるが・・・
けど本人の言葉を信じるなら小夜子は身ごもっているので、
メンタルがやや不安定になっていて、あんな風に
烈しく泣いたりするんだ、と考えれば、
まあ、わからないこともない。

なんか、文句ばっかり書いちゃったので
文句ばっかりの印象になってしまったかもしれないが、
全然、そういうつもりではない。
なんだかよくわからんにせよ泣いたり叫んだり
床をゴロゴロ転げまわったりするエモーショナルな演技は、
市川崑金田一シリーズの、見どころだと断言できる。
わたしは、そこもめちゃくちゃ楽しんで観ている(笑)
なんたって「もう今の映画では絶対観られないよね」
そういう要素が、このシリーズには満載だ。
そこがおもしろい。やっぱり何度も観たくなる。

見どころと言えば、このシリーズに毎回でてくる
ようし、わかった!!! のマヌケな刑事(加藤武)は
犬神家の一族』では刑事じゃなくて、所轄署の署長だが、
口に含んだ粉薬をブホッと吹く、いつものシーンもないし、
全体的に割とまともで、ちょっと大人しい感じだ。
あの人マヌケだけどなんか憎めないし悪い人じゃないんだよな。