BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『八つ墓村』-201018。

市川崑 監督
大藪郁子、市川崑 共同脚本
横溝正史 原作
1996年、日本

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予告編の動画がうまく探せなかった。

金田一耕助シリーズの実写映画版を観るという
(自分だけの)キャンペーンを展開している。
金田一耕助シリーズと言えば市川崑監督、という
イメージがあり とりあえず市川崑監督のを
発表順に、観られるだけ観ている。

金田一耕助シリーズ 映画版」でネット検索すると
70年代製作の『八つ墓村』があることがわかった。
だけど、メガホンを取ったのが市川崑ではなく(野村芳太郎)、
金田一耕助役が渥美清だと知り、いったん観るのをやめた(笑)
ここまでずっと市川崑監督版の金田一耕助シリーズを
観てきていたので、まだ引き続き市川崑で観たかった。
あと、観ないでこんなことを言うのもなんなのだが、
渥美清金田一耕助ってのはどうなのか・・・
イヤ、でも、市川崑版が尽きたら、
他の監督×他の金田一耕助による映画も観たいとは
思っている。

今回観たのは
市川崑×豊川悦司版、96年製作の『八つ墓村』だった。
こうしてみると 
市川崑とは、なんて息長く活躍した監督さんなのだろう。
芸術性の高い作品も、商業作品も幅広く手掛けていて
キャリアのなかではそれなりにいろいろあったのだろうが、
ずーーーっと活躍し続けているのはスゴイよな。
映画監督として腕が良かったのはもちろんだが、
多分、人柄も優れていて、
周囲に慕われ信頼されていたのではないかと思う。

それにしても、豊川悦司金田一耕助をやったことが
あったとは知らなかった。
ここまでずっと石坂浩二版で観ていたので、
豊川悦司か・・・違和感あるかもしれない、と思ったけど、
意外と全然わたしは大丈夫だった。というかむしろ大好き。
声音、セカセカとした口調、
風貌は野暮ったくモッサリしているが年齢が若いために
機敏に行動されると「えっ?」てくらい意外に映る所、
急に「あっ! しまった!」と大声を出すなどの奇矯な行動、
自分の思考についてこられない人を悪気なく置いてきぼりにする所、
・・・かなりわたしの金田一耕助のイメージに近いように思った。
石坂浩二古谷一行がすでに金田一耕助役として定着している所へ、
新たな「金田一」を作り上げるのは大変だったんじゃないだろうか。
そのなかでとても良くやっていたと思う。

映画としても、物語の内容としても、個人的に好みだったのは
『獄門島』の方だったが、この『八つ墓村』も十分楽しめた。
「津山事件」がモデルになっているっぽかった。
(津山事件は、1938年、岡山県の集落の住民だった都井睦雄が、
2時間のうちに近隣の人びと28人を殺害、5人に負傷させたのち、
山中で自殺した事件。『津山三十人殺し』と呼ばれることもある)

96年と、結構最近の映画だけど、
70年代の市川崑監督のこのシリーズの「らしさ」が
ちゃんと保存されていたのが良かった。
田舎の旧家の、古いがすみずみまで磨き抜かれ、
しーんとしずまりかえった室内の描写、
人が殺されるシーンのチープかつセンセーショナルな描写。
金田一が宿泊する宿屋のキュートでおしゃべりな女中さん。
土地の駐在のお内儀や、聞き込み先の娘さん妹さんとかが
一見愚鈍そうで塩対応だが、実は機転の利く、頭の良い人。
ヨロリと机や床に手を突いてものものしく罪を認める犯人。
あと等々力警部(笑)

多治見家の後継者問題とかは、
部外者からすると完全に「どうでも良い」ことだ。
関係者たちがこうまでその問題に
躍起になる気持ちがまったく理解できない。
別に後継者がいなくて家が絶えたとしても
いざとなったらそれでも良いじゃないか、
しょうがないじゃないか、と思う。
でも関係者にとってみたら大問題で
そのせいで人死にまで出てしまう。

森美也子と里村慎太郎が抱き合うシーンに
説得力を持たせるには、ややお膳立て不足だった気がする。
一見キレイに言ってたけど
「自分の愛する人が夢を叶えられるように、
その人のジャマになる存在を、積極的に排除していく、
そうすれば、いつか愛する人が自分の方を見てくれる」
こんなの完全にサイコパスの発想だよな・・・
このような気持ちが育まれていく過程をもうちょっと
丁寧に描いてくれていたら、
わたしの感想も少し違ったかもしれないが。