BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『湿地』-210210。

原題:Myrin
バルタザール・コルマウクル 監督・脚本
原作:アーナルデュル・インドリダソン『湿地』東京創元社
2006年、アイスランドデンマーク・ドイツ合作

f:id:york8188:20210212160821j:plain

www.youtube.com

www.tsogen.co.jp

原作を先に読んでて、映画はあとで観た。
原作は、アイスランドで発生する殺人事件をめぐる
ミステリー小説だった。

本国アイスランド文学界におけるミステリー小説の地位を
一気に引き上げた記念碑的な作品だそうだ。
『湿地』が出るまで、ミステリーでは良い作品があまりなく
読書ファンからも一段低く見られるジャンルだったらしい。
だがこの作品がひとつのきっかけになって
アイスランドではラグナル・ヨナソンなどが出てきた。
また『ミレニアム』『特捜部Q』『オスロ警察』などの
北欧の後発の傑作が翻訳・紹介されるようになり、
日本ではこの10年か15年くらい、「北欧ミステリー」が
ずっと流行っている。

今読むと、正直なところ、
「悪いとまでは思わないが、そんなに大騒ぎするような
内容かなあ・・・?」といったくらいのものだ。
でも普通にちゃんとしてるし、おもしろく読める。
それに翻訳が良いのか元もとの言語がそういう感じなのか
わからないが、文章がとても歯切れよく簡潔で読みやすく、
けっこうややこしいことをやっているにも関わらず、
さくさく読めて全然ストレスなく楽しめる。

「北欧ミステリー」の設定には、一種のパターンがある。
陰惨で残酷で、性犯罪の描写がめちゃくちゃ苛烈、
あと、事件を解決する主人公の刑事さんが、
往々にしてコミュ障で、家庭がうまくいってなくて、
アル中かヘビースモーカーで、パッとしない中年、
・・・みたいな感じだ。
そういうのが、この『湿地』に、もう全部ちゃんと出てる。
そういうところもおもしろい。
でも『湿地』の主人公のエーレンデュル刑事は
後発の作品の主役たちよりはまだキャラが立ってない感じだ。

実写映画版『湿地』は ヒドイ。
たぶん、まずいのは脚本で、
原作でせっかくきちんと組み立てられた論理が
映画ではみるかげもなくズタズタにされてしまっており
原作を読んだうえで映画を観ても
いったい何をやっているんだかさっぱり理解できない。
原作を知らずに観たら完全にただの雰囲気映画だと思う。
どう作ったらこんなにひどいことになるのかわからない。
でもその「雰囲気」が、とても良いことは確かだ。
役者さんも、音楽も、とても良い。
アイスランドの暗さや寒さ、閑散とした海沿いの田舎の
情景などなどが本当に良く伝わってきた。

雰囲気を味わうために、もっとずっと観ていたかったのだが
映画は1時間半くらいしかなく、短いのが残念だった。