BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『特捜部Q 檻の中の女』-190904。

原題:KVINDEN I BURET
英題:THE KEEPER OF LOST CAUSES
ミケル・ノルガード 監督
2013年、デンマーク

f:id:york8188:20190905131446j:plain

www.youtube.com


 

これ原作↓

www.hayakawa-online.co.jp


監督の名前の表記が 媒体によって違うな。
ノルガード、としているものもあれば
ノガール、と表記されている場合もある。



※以下で、ミステリー映画の
 内容に触れていますので、ご注意ください。














話そのものに、おっ、と思うような新しさはない。
普通だった。
北欧ミステリーというとわたしが期待したくなるのは
イカレっぷりや生々しさ、クールな描写・・・だが
いずれも、思ったほどには、なかった。
政界で活躍する優秀な若手の失踪、
捜査の足をひっぱる上司、
「バイオなんとかミクス」という、いかにもな企業名・・・
カネと政治と汚職がからむ系の壮大な話になるのかなと
思いもしたけど、ならなかった(笑)!!

だけど、いつも観てるハリウッド映画からは
まず感じることのできない特異な雰囲気がみなぎり、
ただならぬ緊張感も伝わった。

それに、とてもまじめな映画で、好感をもった。
平凡だなあと思っているくせに、
最後まで、不思議と飽きることなく、楽しく観た。

魅力的なキャラクターが、それぞれに自分の役割を
演じ切っていたところも良いところであった。
カールとアサドの刑事コンビが大好きになったし、
ミレーデ議員とその弟の優しい関係には、心が温まった。
安心してゆったりと眠る議員の姿を見た時には、
わたしも心からほっとした。
救ってくれてありがとう、と目元をかすかにほころばせ
また眠りに落ちていく、やわらかな表情。
げっそりと頬がこけ、ひどい状態だったけれど・・・
闘い抜いた人の、美しい顔だと思った。
あの女優の熱演には拍手を送りたい。
絶対に生きて帰るという意志を持ち続けた
強い女性を、本当に体をはって演じてくれた。

社会病質者、サイコパスなどと呼ばれる人の
ものの考え方を想像することは難しい気もするが、
小雪舞う凄惨な事故現場×金髪の美少女という光景が、
頭のなかでおかしな感じに結びついちゃった・・・
というのであるとしたら、わかるような感じだ。
死、痛み、恐怖、鮮血と肉の臭い、幼い性衝動。
何であれ圧倒的な「力」は、セクシーなものであるから。

「俺は何から何まで全部覚えているのに、
 あんたは忘れてしまっているからムカつく」
そんな感じもあったのかも。
ウフェは、事故をきっかけに
記憶の欠落が生じるなどの障害を起こしており、
生活全般にサポートを要する状態となっていた。
ミレーデ議員も弟と同じ目に遭ったわけであるから、
記憶を一部封印してしまっているのかもと推測された。
弟と違って、問題なく自立した生活を送る彼女だが、
だから記憶障害を持っていない、ということにはならない。
でも、
「そもそも体験しなかった」
「記憶そのものを持っていない」のではなく、
記憶はあるが眠っている、ということであるから、
彼女の脳は、もちろんすべてを覚えているのだ。
かつて視線を交わしたあの少年と
大人になって巡り会ってもスムーズに結ばれたのは
そういうことではないだろうか。
この人と会ったことがある、
一瞬だが好意的な時間を共有した、
呼び起こすことはできないがその記憶が
無意識裡にはたらき、親近感のようなものとして
認識された。

犯行現場のチョイスの背景がよくわからなかったのだが、
考えてみれば、あの場所であれば、
足の悪いおっかさんに見つかる心配がない。
あれこれと計画を練っていたときに、
例の機械の存在に気づいてなんとなく
「これを使ったら長く楽しめる」と思った、
理由があるとしたら、そんなことだろう。
方法論的に、絶対こうでなくてはならないといったことは
それほどなかったのだろうから。
それにしても、
5年にわたった監禁生活において、月経などは
どのように処理していたのか、と素朴に思った。
あれほど強いストレスにさらされたなら、
早々に止まってしまってもおかしくはないが、
それも人それぞれで、続く人もいると思う。

事故が発生した状況には、解せない部分もあった。
北欧の交通ルールにはまったく不案内であるが、
林のなかの、それほど混んでない狭い道路で、
2台の車が並走・・・いったいなぜそうなったのか。
物語的に、ふたりの視線がバチっとからみあう
決定的な瞬間を作り出す必要があったことはわかる。
だが、もう少し、ありえそうなシチュエーションが
他になかったものかと。
燃料タンク車などがからむ大事故で、
後ろを走っていた車までも巻き添えをくらい、
そして事故のあとに、ふたりの目があう瞬間が・・・
それでもまったくかまわなかったように思う。

ダニエルはひたすら不憫。

カールが部下を失うことになった過去の案件の真相が、
明かされるときはくるのだろうか。
応援を待とう、と仲間があれだけ言ったにもかかわらず、
耳を貸さずにカールが飛び出していったことの
理由もよくわからなかった。
バカだなー!と思ったが。
アサドと組んでも、懲りずにまだ似たようなことを
やっていた。

原作小説『特捜部Q』はシリーズ化されており、
6作品くらい、もう出ているらしい。
そのどれかで、事情が明らかにされているのかも。
読んでみたい。