BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『ミッドナイト・ファミリー』-210209。

原題:Midnight Family
ルーク・ローレンツェン 監督
2019年、アメリカ・メキシコ合作

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www.youtube.com

 

ドキュメンタリー映画
予告動画を観てもらえばわかるとおり、
市の人口に対して救急車の数が圧倒的に足りないメキシコシティ
私設(というかヤミ)の救急隊として活動するオチョア一家の
仕事と暮らしぶりを追っている。

なんでも監督は休暇かなにかでメキシコシティに行ったときに
友達の友達、みたいな感じでオチョア一家と出会って仲良くなり、
彼らのことを撮ろうと考えたらしい。

ヤミ救急車は、オチョア一家以外にもメキシコシティにいっぱいある。
みんな警察無線を傍受したり賄賂を払って警察から情報をもらったりして
けが人や急病人のいる現場に、誰より早く駆け付けようと待っている。
だが、呼ばれてもいないのに勝手に駆けつけて勝手に運ぶ救急隊だ。
あとで患者に料金を請求しても、払ってもらえないことはザラだ。
それに警察に賄賂を払うこともあってオチョア家の家計は火の車で、
映画を観ていたなかでも、彼らがこの私設救急隊の仕事で
まともに収入を得るところを見たのは、1回だけだった。
「患者は貧乏人ばかりだし、警察には賄賂を搾り取られる」
一家は始終ぶつくさいっていた。
だったらこんな割に合わない仕事やめれば良いのに、と思う。
でも、オチョア一家の長男ホアンは
「俺、こういうスリルのある仕事が好きなんだよね~」
と ニヤリと笑う。 
あ、そーですか・・・って感じだった(笑)

けど、オチョアたちも
警察に搾り取られて泣き寝入り、ってわけじゃない。
けっこうしたたかにやっていることは観ててわかった。
はっきりと語られていたわけじゃなかったのだが・・・。
たとえば、さきほど、
1回だけちゃんとお金を払ってもらっているのを見た、と言ったけど、
そこのシーン、良く考えると、絶対おかしかった。
急患の搬送先の病院のフロントで、お金を受け取っていた。
公立の病院と、民間病院とがあって、
話の流れからしてこのときの搬送先は民間病院の方だった。
どうして病院がお金を払ってくれるんだろうと思ったのだが
多分、「急患があったら優先的にここにまわす」と
あらかじめ病院と約束してあるのではないだろうか。
病院は当然、患者から診療代を受け取る。
そして、患者を回してくれた謝礼に
診療代から一定額をオチョア一家にキックバックするのでは。
あるいは病院と患者、二重取りかもしれないが。
オチョアたちと民間病院との間に約束があるらしいことを
思わせるシーンは他のところにあった。
まず公立病院に到着してから、患者に声をかける。
「見ての通り、救急窓口の前は他の救急車でいっぱいで、
なかなか受け入れてもらえなさそうです。
民間病院に行ったほうが早く診てもらえる可能性があります」。
わたしがみた限り、病院の外は言うほど混んでなかった(笑)
「見ての通り」っていうけど、患者は担架に縛られていて
ケガとかしているし、外の様子なんか確認できない。
でも患者はケガで苦しいから早くなんとかして欲しい。
公立でも民間でもさっさと連れていってくれよ、となる。
結果、オチョア一家は首尾よく民間病院の方に
患者を連れて行くことができるのだ。
(でもあとで冷静になった患者が金を払うのを嫌がることも多い)

さてはうまくやってんな、って感じだ。

けど悪とか善とか簡単に言えるものでもない。
ヤク中の父親のせいで呼吸が止まってしまった赤ちゃんを
心臓マッサージする姿は必死そのものだった。
彼氏に殴られて骨折した少女に「安心するまでハグして」
と頼まれると、優しく抱きしめてあげていた。
メキシコシティでは、何時間待っても、公営の救急車はこない。
だから私設救急隊という仕事が生まれるわけなのだ。

苛烈な内容だったけど観ていたらなぜだか優しい気持ちになった。

オチョア一家にまた会いたいような気がした。