BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』-200719。

原題:Britt-Marie var her
ツヴァ・ノボトニー 監督
2018年、スウェーデン

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いろいろと、かなり壊滅的に、
大事なことが足りてない映画だったと思う。
※なんかこういうハートウォーミング系の、
 可愛らしいおじさまやおばさまが主人公の、
 しかもスウェーデンとかオシャレ北欧映画は、
 「批判したら人でなし」的な雰囲気を
 すごく感じるのではあるが(笑)・・・

ヒロインのブリット=マリーが
「(私は自分の)人生を片付けてしまった」
ということを言うシーンがある。
これこそが
本作品の、カギだったとわたしは思う。
だからこそ「人生を片付けてしまった」は
セリフで済ますのではなく、他の方法で、
もっと熱く、強く、伝えて欲しかった。

方向性としては何のまずいこともなく、
普通に、良い話になりそうなストーリーだった。
別に、この映画の全部が悪いと
言いたいわけじゃない。

だけど、いずれのエピソードも彫り込みが浅く、
サーっと流してしまってる感じがあった。
ディテールの詰めも甘く、そのせいか、
どうでも良いことがかえって気になった。

たとえばヒロインが家を出てから
生活していくためのお金を
どこからどう捻出してたのか。
いくらくらい、お金を持ってたのか。
銀行ATMとかがどこにでもあるような
大都市という感じではなさそうだったが、
そんな場所で、所持金をどう管理していたのか。
ヒロインがお風呂に入るシーンが皆無なのだが、
お風呂やシャワーをどうしていたのか。
(特に『ユースセンター』滞在中)
あと、目の悪い女性の家に下宿し始めてからは
その下宿先から、勤務先である
「ユースセンター」に通うのに、
交通手段はどうしてたのか。
目の悪い女性に「この部屋だけは入るな」
と言われた部屋があったのだが、
(かつてプロサッカー選手だったこの女性と、
 名コーチだった今は亡き父の、思い出がつまった部屋)
ヒロインはすぐにその約束を破って部屋にしのびこみ、
しかもそこにあったサッカーのルールブックを、
勝手に取って使っちゃってた。
これは普通に、マナーとしてどうなんすかね(笑)。
しかも目の悪い女性は 
ヒロインがやったことについて
何ひとつ文句を言わない。
(見えないので、部屋から
 本がなくなったことに気付かない、
 ということかもしれないが、しかし・・・)
彼女が、他人をあの部屋に入れたがらないのは
あの部屋の中にあるもの、
つまり「サッカー」と「父」の思い出が
本当に本当に大事だからだろうし、
封印せずにいられないほど、
思い入れが強いから・・・、ではないのか。
それなのに目の悪い女性は、結局自分から
積極的に「サッカー」に関わるようになり、
何くれとなくヒロインに協力するようになった。
そこには、何の葛藤も見受けられなかった。

あと、そもそもこの映画が
「何日間」の日々を描いた物語なのかわからない。
それから、街の規模感がまったく伝わってこない。
とか、とか、とか
他にもいろいろあるのだが・・・

今挙げてきたようなことは本筋とはあまり関係がなく
本当にどうでも良いかもしれないのだが、
でも、気になってしまった。

いや、けど、やっぱ、
本筋と関係ないってことはないよな・・・
だって、今までずっと専業主婦で、
40年間働いたことがなかった女性が、
60代で家を出て、なんとか一人で生きて行こうと
奮闘する物語、なんだから。
そういう話なら、お金のこと、非常に重要だ。
世間知らずで 家の中のこと以外何もできない
って感じを出すのにも、お金の話は十分使えたと思う。
それに、
新しい人生を歩みだす記念すべき地となった街に
ヒロインがどのようにして根を下ろしていくのか
人間関係とか 生活圏の構築とか
もっと具体的に、見せていくべきだったと思う。
でも、そういうことをやってなかった。
この映画は。

「心の変化」とか 「心の成長」とか
言葉だけでいくら表現しようとしても、 
現実感を持って迫ってはこないのだと思う、
人間の生きる姿というものは。
ヒロインは、多少世間知らずかもしれないけど、
60歳を過ぎた大人なんだし・・・
ファンタジーじゃないんだから。
一個の人間が生活していこうとする様子を
もっと克明に
もっとディテールを 見せてくれないと
って感じだよな。

それから、
一番気になったのは
ユースサッカーの「コーチのライセンス」問題だ。
ヒロインは生活のために、ある小さな街の
青少年センターみたいなところの管理人となり、
その業務の一環として、少年サッカー団の
コーチも務めるはめになる。
仕事を選べる状況じゃなかったので、
コーチなんてできませんとは言えなかったのだ。
サッカーなんか、まったく興味がないのに。
そのチームは、弱小も弱小だが、
やる気がある子は結構いて、その子たちは
近々開催される公式試合を、最大の目標としている。
この試合は、
ライセンスを持ったコーチが率いるチームでないと
出場できないことになっているらしい。
ヒロインはもちろんライセンスなんか持っていない。
彼女が面倒を見ているチームの子どもたちは
せっかくこれまでヘタなりに練習を頑張ってきたのに
実はそもそも試合に出られない、ということが
大会前日に発覚して、おおさわぎになる。
※コーチがライセンスを持ってないと出場できないことは
 一応、ヒロインも事前に聞かされていたのだが、
 何しろ興味がなく当事者意識もないもんだから
 聞いても忘れてしまってた、ということだろう。
だが、ヒロインの下宿先の、目の悪い女性が
ヒロインのために、一晩でその「ライセンス」を
用意してくれるのだ。
「用意してくれる」??????
いったいどうやって用意したのか??????
観ていても、まったくわからなかった。
偽造だとしたら、
(というか偽造としか考えられない。あるいは
 他人のライセンスをヒロインのものだと騙ったか)
それはもちろん違反行為のはずだし、
チームはその違反行為で試合に出たことになるが、
ということは、違反があったことがバレれば、
無効試合となるんだろうけど・・・
「ライセンス」がどう用意されたのか語られず
違反行為をしたのだとして それがのちに
バレたのかどうかも、描かれないのでわからなかった。

ヒロインと目の悪い女性がしたことが、
あたかも「子どもたちのために良いことをした」風に
描かれていたけど、
何度も言うように、彼女たちがしたことは
おそらく違反行為だ。
確かにそのおかげでチームは試合に出られたけど、
でも、「悪いことしてますよね・・・?」。
その疑問がまったく解消されない。
正規の手続きを踏んだならそうとわかるように、
ちゃんと説明してくれないと、わからない(笑)

この通りちょっと話が、テキトーすぎる。
この映画は。

そこがどうしてもいただけなかった。

ヒロインを演じた女優さんを始め
役者さんはみんな良い演技をしていたとは思うのだが。