BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『17歳』-191203。

フランソワ・オゾン監督
原題:Jeune et Jolie
2013年、フランス

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フランス語の原題を直訳すると
「若くてかわいい」みたいな意味らしい。
そのまま邦題にしても
良かったんじゃないかと思う。

フランスは恋愛とかそういうことにまつわる文化が
本当に成熟しているな。
成熟しているって的確な表現なのか自信がないが。
あと、フランスだからなのかどうかもわからないよね。
つい、主語を大きくしてしまった・・・。
でも、愛を扱うフランス映画ではいつも、
堂に入ったものを感じる。
自由だ。
慣れているためか、早く的確に深いところまで踏み込む。
手際が良い。
映画のなかでは、同性愛とかなんとか、
異性愛じゃない愛の形がそこにあっても、
そんなことでいちいち大騒ぎしてない。
自分の子どもに彼氏彼女ができたら、
すぐ家に招待して家族ぐるみの付き合いをし、
子どもとその恋人が部屋にこもって、
あんなことやそんなことをしていても、
知らぬふりをしてあげたりする。
その程度のことは当たり前、といった感じだ。
それから、
不倫の恋がいけない・・・とかなんとか以前に
それは、もう普通にそこにある。
ほかにもいろいろ。
いろいろわたしの感覚とはだいぶちがう。
少なくとも映画のなかでは。

ヒロインは、自己評価が定まっていないのかな、
という感じがした。
蔑まれると、蔑まれるのによりふさわしい自分に、
嬉々としてなろうとする。
愛されると、逃げようとする。
愛していない相手の、愛を弄ぼうとする。
売春はまだしも、それによって得たお金を
貯めていた目的がついにわからなかった。
貯めて何か買いたいとかいった目あてがあったわけではなく、
単に自分の価値を知りたいような気がしていたのだろうか。

少女が売春を繰り返していたなかで、
比較的、紳士的に接してくれていた得意客がいて、
この人物は高齢だったこともあり心臓に持病があって、
ある日、ヒロインとの情事の最中に死亡してしまう。
それがきっかけでこれまでやってきたことが親にばれ、
ヒロインはしばらく売春をやめるのだが、
やがて再開することとなる。
母親に没収されていた携帯電話を見つけだし、
久しぶりに電源をいれてみたら、
顧客たちから、今夜どう?のメールがたくさんきていた。
そのなかの一件に応じて、待ち合わせ場所のホテルに赴く。
そこに現れたのは、ひとりの初老の女性。
死なせてしまったあの得意客の、妻だった。
(演じるのはシャーロット・ランプリング
夫の最期を見た女と会ってみたかった、と。
夫が払っていたのと同じ額であなたを買う、と告げられ、
彼女の夫と会う時にいつも使っていた部屋に、ふたりで入る。
ベッドに腰掛け、隣に来てとうながす未亡人。
ヒロインは、服を脱ぎましょうか?と申し出る。
未亡人は、その必要はない、と言う。
ヒロインは、下を向いて、すみません、と謝る。
服を脱ぎましょうかと言ったのは、
レズビアンプレイをご所望なのかしら」とでも思ったからだろう。
未亡人がどんな気持ちでこのような機会を持とうとしたのか、
おもんぱかることがいかにもできそうな、
大人びた表情を見せる子なのだが、
実は見た目ばかりで、やはりまだ、彼女は
そこまでもののわかった子ではないのだ。
まだ、幼く、感情の種類もそのグラデーションも単純。
だがその反面、一人前の売春婦のようなものの考え方を
なかば自動的に、してしまっている。
未亡人は、夫と寝た売春婦と自分も寝てみたいと
望んでいたわけではなかった。
それにわたしが観た限りでは、彼女はヒロインのことを、
たとえば、夫といやらしいことをした小娘の商売女、
などとは見ていない感じだ。
また、ヒロインが、子どもなのにいっぱしの娼婦のような
ふるまいをしたのを笑わない、拒否しない、憐れまない。
売春なんてやめなさい、などと説諭したりしない。
「ヒロインが売春婦としてそこにいること」
それ自体を拒絶するようなことをしたら、
少女に恥をかかせると、わかっているのだろう。
同時に、このような場合、
何をどうしようともヒロインの側が不利だと知っている。
つまり、未亡人は、目の前の孫娘のように年若い少女を、
立場あるひとりの人間として扱っているのだ。
この若いヒロインをそのように遇する大人は、
物語の登場人物のなかにはあまりいない。
未亡人の態度は、凛とした、毅然としたものだ。
すみません、と小声であやまるヒロインは、
本当に恥ずかしそう。
このとき初めて彼女は、
自分がしていることや、今この場所にいることを、
恥ずかしいと思ったのだろう。
根本的に間違っているのだ、と思ったのだろう。
とてもみじめなはずだ、そういう気持ちは。

ヒロインは 圧倒的に、若く美しい。
でも50も歳上そうな、あの未亡人の方が・・・
髪はグレーでツヤもなく、顔はシワがめだつ、
彼女の方が・・・いや、言っても仕方のないことだ。

ヒロインは 未亡人とのひと時をきっかけに、
いよいよ売春をやめるだろう。
自分の価値を、金ではかってみようと
思ってのことだったならば、
もうそういう考え方はしないだろう。

そうであってほしい、と感じた。

というのが、いまの時点での 
この映画についての感想だが、
今後、変わっていくこともあるかもしれない。