BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『ミッドナイトスワン』-201102。

英題:Midnight Swan
内田英治 監督・脚本
2020年、日本

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15分の予告編ってすごいなあ(笑)

『TENET』や『鬼滅の刃劇場版』などなどの超ヒット作のかげで
着々と動員数をのばしているような話を小耳に挟んではいた。
でも、主演が元SMAPの草彅剛さんなので、
まあ「SMAPファンのお祭りみたいなもんだろう」とか思い、
直前まで、この映画を観る気は、実を言うとなかった。
けど、ふと思い出して、20時以降の一番最後の回に
飛び込んで、観てみたところ、非常に素晴らしい映画だった。
何の予備知識もなしに、なんの気構えもせずに観たせいか、
その感動たるや後頭部をおもいっきりぶんなぐられるような、
肉体的なショックに近い感じの・・・
そのくらい心にゆさぶりをかけられた。

まあ、完璧とか、そういう感じの映画ではなかった。
多少、編集がザツというか、説明を端折りすぎたために
わからなくなってしまっている所が、散見されはした。
だが、それは全部、映画を観終わって、原作小説を読んで、
そのうえで冷静に分析を試みた結果、気付いたことであって、
映画を観ている間は、正直、そんな所は気にならなかった。
映画を観ている間に、ちょっとでも気になってしまったら
この作品は駄作、と判断していたかもしれないが・・・。
全然気にならなかった。
めちゃくちゃ集中して観た。

草彅剛さん・・・あなた名優だよ。
完全に「凪沙」だと思って観てたよ。

りんちゃんが「ああなる」場面などは
あまりにもショッキングで
(まさか「ああいう」ことにまでなるとは思ってなかったので)
映画館で鑑賞中に、普通に「あっ!!!!」と声を出してしまった。

この映画は、
キャスティングが難航し、
新型コロナウィルスの感染拡大の影響で撮影も遅れ、
そもそも企画もなかなか通らず、結構大変だったらしい。

企画が通りにくかったのは、ちょっとわかる気がする。
なぜなら、この映画は、
「他者の愛情や顧慮を養分にして人は大きく花開く」
ということの美しさと残酷性を、
描こうとしていた作品だと思うからだ。

一果は、周囲の人びとの愛情や期待を一身に吸収して
あんなにも大きく開花していった。だが、
彼女が輝くように美しい存在になっても、
それで周りに何か返ってくるわけではない。
一果にすべてを懸けたために、お金も時間も健康も
いちじるしく損なうキャラクターが何人もいた。
だが一果の道のためにたとえ周囲で何が起ころうとも、
誰がどれほど一果のために犠牲を払ってくれたとしても、
その人たちに何かを返すために生きる義務は一果にはない。
一果は今後、バレエを辞めたってまったくかまわないし、
もし、ケガなどの事情でバレエが続けられなくなったら、
投資は完全に水泡に帰すわけだが、それでも一果に責任はない。
何も返ってこないとわかっていても注ぐのだ。愛するのだ。
そのためにどんなに傷付いてもすべてを失っても。
そういう思いを養分として咲く美しい花、
それがバレエという芸術なのであり、
人間、という存在だ。
人間といってわかりにくければ「子ども」ということだ。

この映画が描き出そうとしていたのはひとつには
確実にそういうことだ。
これは、すごく重要だが、非常に扱いにくいテーマだと思う。
「誰のためにこんなにしてやっていると思っているんだ」
なんて一果に言おうものなら、一果がかわいそう、
シンプルにそういう意味で、非常に難しいテーマだ。
描き方と、そのバランス感覚によっては
ちょっと間違えたらものすごく下品な話になっただろう。
また、ある種、時代に完全に逆行するメッセージと
とらえられかねないものだとも思う。
企画を通すのがとても難しかったのは、だからではないか。

この、腹の底の、底の部分で、どうしようもなく
伝わる感じみたいなのはいったい何なのかと思う。
残酷ですさまじい。だけど途方もなく美しかった。

日本映画は、こういうのが好きだ。
完璧であって欲しいわけじゃない。
全力で作ったんだとわかる映画が好きだ。
挑戦してて、勇気があって、果敢な映画が好きだ。
こういう映画を応援したい。
こういう映画が、なんか忘れた頃にぽっと出てくるから、
日本映画を観ることをやめようと思いきることができない。
自分の国の映画を、観る方が先にあきらめちゃダメだなと思う。

この映画については、他の所で、もう少しちゃんと考えて
書いてみたいと思っている。