BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『グリーン・デスティニー』-200614。

原題:臥虎蔵龍
英題:Crouching Tiger, Hidden Dragon
アン・リー監督
2000年
中国、台湾、香港、米合作

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今の視点で観直すとけっこう斬新だ。
女の幸福のメインストリームを逸脱しても
自分の心に正直に生きたいと願う女の子の
勇敢な戦い(あるいは反抗期・・・)の物語であり
そんな彼女の足にすがりついてはなそうとせず
同じ穴のムジナでいさせようとする「毒母」の
おむずかりの物語であり・・・と、
けっこう今日的な要素を持った意欲的な脚本だ。

ただ まったく 描き切れてはいないのだが(笑)

イェンとローの長い回想シーンが明けた所から急に
時空が歪んだのかと思うほど 話がわけわからなくなる。
これはいったいなんなんだろう。
そこまではちゃんと理解できているつもりなんだけど
いつも同じ所から、話についていけなくなる。

元も子もないことを言うようかもしれないが
そんなにあの剣が大事なら
初対面の良く知りもしない相手に
剣を見せびらかしたりしなければ
こんなことにはならなかったのでは・・・
ユーシュンもそうだし 預かった人もそうだ。
大事なものなんだからホイホイ人に見せたり
するもんじゃないと思うけど。
文化や価値観の違いなのかもしれないが。
いつもそう思う。
碧眼狐があのタイミングで街に来てたことの
都合の良さの理由も良くわからないし・・・
違うか、むしろ逆か。
碧眼狐はあのタイミングで街に来てて良いけど、
剣が来たのが同じタイミングだった、というのが
良くわかんないのか。

イェンとローの愛の物語に40分近くも割いているわりに、
シューリンとムーバイの物語の方は説明がすくない。
これはとてももったいないといつも感じる。
この物語は、
イェンとムーバイ、
ムーバイとユーシュン、
ユーシュンとイェンの、
離れているようで切っても切れない
複雑な愛憎関係を描くドラマだとわたしは思う。
だからイェンとローの恋模様をあれだけちゃんと語るなら
せめてシューリンとムーバイの絆くらいは
同等の比重で描き込んでいかないと、
対比が全然活きないんじゃないかなあ。

そもそも、この映画は
すべてのキャラクターに
ちゃんとそれなりの背景とストーリーが付与されていて、
きちんと見ていくと、本当に個性的なキャラばかりだ。
2時間の映画ではもったいない。
全4回、各2時間くらいの特別枠の
テレビドラマシリーズにでもした方が
おもしろいのかなと思ったりする。

絵画のように美しく端正な映像は いつ観ても素晴らしい。
ワイヤーアクションは 今観るとちょっとだけ、さすがに
安っぽく感じるというか、まあがんばってるよねみたいな
微妙な気分にならないこともないのだが、
この映画こそ、中国の武侠映画の
ワイヤーアクションの先駆けだったことを思うと、
公開当時、スクリーンでこの映画を観た人たちのことが
うらやましくもある。鮮烈な感動を味わっただろうと思う。
わたしは公開されて何年も経ってからDVDで観た。

ムーバイとイェンが対峙する洞窟のシーンなんかは
チャン・ツィイーが ぞっとするほどきれいで
しかもものすごい気迫を感じる。
ああいう所を観ると いつも
やっぱりチャン・ツィイーって人は
きれいなだけじゃないなと思わされる。

それにしても
ムーバイをチョウ・ユンファでなく
ジェット・リーがやってくれていたら。
もしそうだったら。
そうだったらどんなに良かっただろうな。
ジェット・リーがもうちょっとだけでも
俳優業にガツガツしてくれてたら・・・
奥さんのご出産があと2年か3年だけ
遅かったり早かったりしてくれたら・・・
惜しい・・・やりきれない・・・

ラストシーンは
今観ても、静かで、ちょっとモダンな感じで
個人的にとても好きな場面だ。
彼女なりの落とし前であり、
愛の希望のしるしでもあるのだろうと思う。