BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『あの子を探して』-200614。

原題:一個都不能
英題:Not One Less
チャン・イーモウ監督
1999年、中国

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中国僻地のちいさな小学校の教師・カオ先生が、
母親の看病のために1ヶ月間 休職するので、
そのあいだ、代用教員のミンジに教室を任せることとなる。

「自分が復職するまで、生徒を一人もやめさせてはならない」
「生徒が一人も減っていなければ、ボーナスをあげる」
カオ先生は、そう言った。
貧しい僻地の小学校では、多くの教え子が、
家庭の事情で学校をやめざるを得ない。
そんな現状を憂える気持ちから、出た言葉だろう。
でも自分の思いなどミンジに話してもしょうがないし、
理解してもらえるはずもない。
なぜならミンジは、代用教員とは言っても、
他の村から呼ばれてきた、ほんの13歳の少女であり、
この子もまた、幼くして一家の労働力とならざるを得ない、
貧しい家の娘・・・という点で、
学校の教え子たちと、境遇は大差ないのだ。
これは「子どもの貧困と教育」という根深い問題で、
年端もいかぬ少女に背負わせて済むような話ではない。
そんなことくらいカオ先生もわかっているのだろう。
それでも、先生は、
お金をあげるから何とか生徒を繋ぎ止めてくれ、と言って
ミンジに頼るほかなかった、ということだと思う。
カオ先生は、自分の休職期間が始まる当日の朝まで、
ミンジと教え子たちを案じて、学校で寝泊まりしていた。
(ミンジと、家が遠くて通学が難しい何人かの子どもは、
 学校で寄宿生活を送っているようだった)
カオ先生は、自分の判断が完璧ではなかったことや、
根本的な問題の解決にはなっていないことを知っている。
迎えの車がやってきて、急かされても、
「(教え子たちが)心配で」と出発をためらう姿が
すごく印象的だ。

代用教員のミンジは、
「生徒を一人もやめさせなければお金がもらえる」
「生徒が減ったらお金がもらえない」
という風にしかとらえていない。
やはりカオ先生の本当の思いなど理解できない。
ミンジは、まだ子どもなのだ。
ミンジが、学校に来なくなった男児ホエクーを探して
あんなに懸命に奔走するのは、あくまでもお金のためだ。
町に行った男児を連れ戻すための必要経費を
授業をつぶして生徒たちとともに血眼で勘定したりして
金、金、とお金のことばかり言う姿は、さもしい感じだ。
でも、ミンジは「お金に汚い」だろうか?
それに、1ヶ月間の代用教員の仕事をやりとげて、
給金がちゃんともらえたとしても、
それはミンジが自由につかえるお金になるだろうか?
もちろん、ならないだろう。

学校をやめた男児ホエクーは、
ミンジ先生が町まで探しに来てくれたと知って、泣く。
彼は先生が金のために動いているなんて思いもよらない。
ただ、誰かが自分をこんなにも気にかけてくれた、
他の誰でもない「水泉村のホエクー」を探してくれた、
「心配でたまらない」と言って自分のために涙してくれた、
そのことが、彼のさびしい心を救ったのだと思う。

カオ先生、代用教員ミンジ、教え子のホエクーで、
ものの見え方が、三者三様だ。

お互いにズレているのだが、大事な所ではなぜか
わずかずつ重なっていて、
それぞれの心にとって一番必要だった部分を、
救い、育み、癒やしていることが伝わった。

暮らしの安定がなければ、教育も定着しないと思うし、
人を思いやる心の余裕も生まれてこないのではないか。

・・・

ホエクーを探し出すための必要経費を
ミンジと教え子たちで割り出そうとするシーンがあった。
算数が得意な子たちが、式を立てて計算していく。
バイトを何時間したとして、バス代がいくらだったとして・・・
一番前の席の、クラスで一番幼いと思われる女の子が、
計算なんてできないのに、おふざけで何度も挙手をする。
ミンジが気づいて、だめでしょ、と手を降ろさせると、
えへへ、という感じで笑う。
この時の、女の子の笑顔がとびきりかわいらしくて
何度も場面を止めて観直してしまった(笑)