BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『花の生涯 梅蘭芳』-200613。

原題:梅蘭芳
英題:Forever Enthralled
チェン・カイコー監督
2008年、中国

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京劇の世界を舞台にしたチェン・カイコー作品、ということでは
わたしは『さらば、わが愛 覇王別姫』(1993年)の方が
おもしろく感じたし、好きだけど、
この映画も全然 悪いということはなかった。

京劇の売れっ子女形梅蘭芳レオン・ライ)と
男役のトップスター・孟小冬(チャン・ツィイー)が
恋に落ちるという筋は まさかと思うけど 実話だとか。
チャン・ツィイーみたいに可愛らしい女優さんが
「男役の京劇役者」の役というのは
ちょっとどうなのかなと思ったけど・・・
この二人が、宴席で客にせがまれて、
衣装を着けずお化粧もしないそのままの姿で
京劇の一場面を即興で演じてみせるシーンとか
ちょっと奇妙な倒錯感があって、美しかった。
二人とも姿勢が良くて 立ち回りがきれいだった。

長い長い時間をかけて人間関係が変化していく様子や
人の心が変わっていく様子が、こまやかに描かれていた。
本当に、人間ってこういうものだよなあと思わされた。
一貫性がなくて、正しいことをやり通すこともできず、
ちっぽけで、弱い、それが人間なんだよなと。
でも、時が流れ、人の心が変わるからこそ、
立ち直れないかに思えた深い心の傷も癒えるのだし、
二度と元に戻らないかに思えた関係が修復できたり、
そういうことがあるものなんだと思う。

「みなさん、失礼します。支度があるので」。
梅蘭芳は一体どんな気持ちだったんだろうなと
想像せずにはいられない 
何か 万感こもったラストシーンだった。


この映画を観てみて、一つ、思ったことがある。
わたしは、これの前に観た
キリング・ミー・ソフトリー』が
もう、本当にちっともおもしろくなかったし、
むしろちょっとガッカリしたくらいのものだった。
どうしてそんなにもおもしろくないと感じたのか
自分でも自分の気持ちの内容が良くわからなかったけど
チェン・カイコー監督は中国の人なんだから、
 中国を舞台にした物語を作れば良いのに」
みたいな、偏見的なことを思っているからなのかなと
感じていた。というのも
これまでに観てきたチェン・カイコー作品は
全部、中国の古代、または近代を舞台にした、
史劇あるいは大河ドラマだったのに、
キリング・ミー・ソフトリー』は急に、
舞台が現代の英国で、役者も全員欧米の人だったので。
けど、どうも
わたしが「中国の話をやれば良いのに」と思っているから
キリング・ミー・ソフトリー』でガッカリしたというよりも、
キリング・ミー・ソフトリー』はそもそも
チェン・カイコー監督の得意分野とは全然違う映画であり
監督の持ち味が出てないので、それでおもしろくなかった、
(まあ、あの映画は、それ以外の理由でも
 根本的におもしろくない作品だったと思うけど・・・)
と わかった。

チェン・カイコー監督は多分、
「人」のドラマを描くにしても、
「時代」を軸に回すスペクタクル感のある脚本の方が
本領を発揮できる人なのではないかと思う。
始皇帝暗殺
覇王別姫
花の影
花の生涯 梅蘭芳
といった作品からは、
大きな時のうねりの中で、ちいさな人びとがもがく姿を
俯瞰する視点を、感じる。
秦の中華統一とか日中戦争文化大革命期とか
まさしく激動の時だった中国を舞台にした作品が
あんなにおもしろく出来ていて、
しかも美しかったのは、
だからなのではないだろうか。

30年間、50年間くらいの大きな時間軸の中で
キャラクターたちの人生を見つめる物語の方が
チェン・カイコー監督は 得意なのではないかと思う。

キリング・ミー・ソフトリー』は
全然そういう映画じゃなかったし、
人間関係も狭くて、全体的にちっちゃい物語だった。


チェン・カイコー監督の映画で
あともう1本、『空海 ~KU-KAI~ 美しき王妃の謎』(2017年)
という映画が U-NEXTですぐに鑑賞可能な状況なのだが
これはまったく観る気になれないので 観ない(笑)

北京ヴァイオリン』とか『運命の子』とか
観てみたいな。
あと初期のも。

でもこれらはレンタルショップにでも行かないと
ソフトが入手できない。
いったんチェン・カイコー強化期間はこれで終わりにして
次は ウォン・カーウァイチャン・イーモウ監督でも
当たってみるかな・・・