BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『ミッドサマー ディレクターズカット版』-200314。

 

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www.phantom-film.com

 

※観てからお読みください※

季節外れの雪で 映画館が空くだろうと思ったから
出かけたんだけど
同じことを考えた人は他にもたくさんいたようで
やっぱり映画館はけっこう混んでいた。
こんな寒い日に良くもまあ外に出てくるもんだねと
思ったが、 お前がな。って感じだ。
特に『ミッドサマー ディレクターズカット版』は、
気づけばそこそこ大きいスクリーンの
7〜8割方 埋まっていた。
ディレクターズカット版の、
期間限定枠でなく通常枠での公開は、
本当に、ファンに熱望されていたもんなあ。


・・・

結果的には、まあ、
わたしは通常版の方が、好きだ。
ディレクターズカット版は、
うわーーー!!! 観といて良かったーーー!!!
通常版しか観てなかったら危ないところだったーーー!!!
とか思うほどの内容ではなかった。
『ミッドサマー』という作品についてのわたしの理解が
根底からくつがえされるほどの内容ではなく
(そんなことあったらそれはそれでどうなんだって感じだが)
言ってしまえばディレクターズカット版は、
通常版『ミッドサマー』を観た人への
ボーナス企画の域を出ないものだった気がする。

でも、「観なければ良かった」とまでは思わない。
登場人物たちの心の動きや、
ホルガの民と外部からやってきた者たちとの
根本的なスタンスの違い、分断の様子が、
より詳細に、より論理的に、より具体的に、語られており、
なるほどこういうことか、と思わされた。

ヒロインと恋人の関係が終焉へと向かっていく過程、
ヒロインの神経質で不安定な「あんた、そういうとこやぞ」っていう感じ、
論文をめぐるジョシュとクリスチャンの対立、
マークのバカ&クズ&マヌケ野郎っぷり・・・
外部からホルガの集落に来た者は全員、自分のことしか考えておらず、
他者の立場への思いやり、協調の態度がまるでない。
そういうことがじっくりと説明されていた。
どれも、説明してもらわなくても想像がつく所ではあるのだが、
それでも、観ておいて良かったかな、と思わなくもなかった。

実は、わたしは、通常版を観た時、
「ミートタルト」の中身が人肉じゃないかと疑っていた。
具体的には2人の老人の肉が使われたのかと思っていた。
だけど、ディレクターズカット版には、
あれは人肉じゃないとはっきりわかる描写があった。
屠殺される家畜の断末魔が挿入されていたから。
タルトに使われたのはその肉だと考えるのが自然だった。
確かに通常版においても、人の死体は火葬され灰が撒かれていた。
牛さんが連れて行かれるカットは・・・
イヤどうだったかな通常版にはあったかな・・・
あの牛さんは、どのシーンにもたいてい写り込んでいたからなあ。
「(人の死体を)どの程度まで焼いたか」とか
終盤のあの展開の時「本当に本物の死体を並べていたのか」とか
考え方によっていろいろ解釈のしようがあると思ったので、
通常版を観た時、わたしは、あれは人肉じゃないかと思うことを
あきらめられなかったのだ。
でもディレクターズカット版でああも明確に家畜を屠ったことが示されたので
それをおしてまで人肉説を主張しようとは思わない。
でも、逆に考えると、
屠殺の音声を、通常版ではばっさりカットしていたのだ。
カットしたということも監督の意図のうちなのだ。
「あー、ここで屠殺の音を入れないで前後をつないだら、
 観る人のなかには、流れ的に
『あれ、何のお肉だろう・・・まさか・・・』
 って思う人もいるかもしれないな~。
 けど、それでもいっか!」
と、監督が考えてたということになる。
お、鬼っ! 悪魔っ!

しつこいようだけど、
通常版では、屠殺をうかがわせる音声が挿入されていなかった。
そうするとね、場面の展開のしかたから言ってもだね、
あそこで「ミートタルト作ってるのよ♪」って言われたらもう・・・。
おいおいおいおい待て待て待て待て! 何の肉使ったんだ!!!
と 思わずにいられなかったわけよ。
思っちゃったわけよ。
だってあの村ではそれ以上のことが平気でバンバン行われていたじゃないの。
わたしはあれが人肉だと思ってしまった自分を
なまあたたかく受容してやりたいと思う。

話変わって、
ダニーは、クリスチャンとマヤの行為を目撃するまで、
慟哭しない方が良かった気がする。
でも、考えようによっては話は別だ。
ダニーの心の傷の癒しがなかなか始まらなかったことの背景にあったのが、
「ずっと、声を出して泣くことができなかった」ことではなく
「これ以上嫌われたくなくて人前で泣けなかった」
ことにあるのだとすれば。
そうならば、ディレクターズカット版のあのシーンは全然アリだと思う。

あと、
「湖」の場面を観て思ったのだが、
「湖」の場面は、「崖」の場面の前の方が良かったんじゃないかな。
崖の場面の後だったので、あの場面がなぜ必要なのかわかりにくかった。
「崖」の前に持ってくれば、
ペレがダニーたちに「アッテストゥパン」についての説明をしなかったことの
建前上の理由付けになった。
(その場合は演出も通常版とは違うものになっただろうが)
「あくまでもフリをするだけ」と勝手に思わせておけば良いのだから。

なくなったという聖典『ルビ・ラダー』はその後どうなったのかなと思う。
本当に失くなったんだろうか。
ジョシュが盗んだようには見えなかったんだよな。
ルビ・ラダーの紛失とか取り扱われ方については
ちょっとわからないことが多かった。


それにしても、何回観ても衝撃的な映画だ。

わたしはいったい 
何てものを観てしまったんだ(笑)
『ミッドサマー』。
ほんとにスゴイ映画だと思ってる。