BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想『運命の子』-240331。

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レンタルで観た。

春秋時代の晋国を舞台にくりひろげられる愛と復讐の物語。謀殺された一族の、ただひとりの生き残りが、心ある者の手でひそかに育てられ、成長してみずからの本当の身分や家族の死の真相を知り、一族の仇を討つ。史記にも載ってるできごとの映画化。チェン・カイコー監督。

 

権力者が、陥れた敵の落とし胤の存在を恐れて(その子が生き残った場合、いつか事情を知って復讐しにくるかもしれないから。)、一族を根絶やしにするばかりか、同年代とおもわれる無関係の子どもまでも全員殺した、という話は、昔からよくある。だいたいは、庶民の子も一夜にしてみーんな殺しちゃいました、ちゃんちゃん、で終わるのだが、なるほど、ギリギリのとこまでくると、こういう事態になるのか、そりゃそうだよな、というのが、この映画ではしっかり描かれていた。そこが、徹底的なかんじで、わたしとしては好み。

 

中国きっての美女ファン・ビンビンが、母親役で登場するので、彼女推しの売り出し方がされていて、公開当時のキービジュアルなんかをみても、「母の愛の物語」みたいな見せ方になっていたようだ。でも、実はファン・ビンビンの出番はごくごく序盤でおしまいで、母の愛よりも、どちらかというと父の愛情の物語だった。もちろんおっかさんも、大きな役割を果たしていたけどさ。

 

全体的なことでの感想をいうと、「中国史劇にしては、なんだか少し、盛り上がりに欠けた」という感じはある。なにしろ、登場人物が『そして誰もいなくなった』ばりに、なぜかどんどん減っていくんだよね。高官のお屋敷なのにメインキャラ以外は人っ子ひとりいない状況で、おかげでお屋敷の中で主人と家臣の殺し合いが始まっても誰も助けにこず、女の叫び声ひとつ上がらず、騒ぎにもならない、みたいなことが起こるようになり、なにかガラーンとした画になっていて、美術や背景が美しいだけに、映画というか舞台演劇を観てるみたいな感じでもあった。美術に力を入れるあまり予算が底をついて、役者をあまり雇えなかったのかな笑 王なんて、早々に登場しなくなり、どこいった、って感じだった(王を演じた役者さんはロバートの秋山くん似)。

 

けれども、ストーリーは胸熱そのもので、かなり惹きつけられた。よくある貴種流離譚、復讐譚ではあるのだが。きっといつの時代にも、みんな、こういう話がすきなんだよね。

描写がなんだか薄っぺらいかんじはしたが、それでも十分にドラマチックで、ところどころ、グッとくるシーンがあって、良かった。

 

メインキャラクターたちもみんな適役。

宿命を背負って成長していく男の子の、各年代を演じた子役も、とても可愛い。最後は15歳くらいになり、その真面目でけなげな演技には、ほんとうに心を打たれた。複雑な立場のキャラクターなのに、よく役柄を理解して、ちゃんとやっていたとおもう。

 

皆殺しにされた一族のほうも、そりゃ気の毒だけれど、別に立派な人たちだったわけではないんだよなー。男どもは特に、いやらしい権力争いでライバルとの足のひっぱりあいを演じ、王に気に入られて天狗ぎみになり、人に嫌われてもしかたのないことをたくさんしていた。


反対にその一族を根絶やしにした側も、血も涙もない極悪人かというとそんなことはない。ずるいことはしたし、皆殺しはいくらなんでもやりすぎだが、政治家としても武人としても家長としても有能で、人としても、心の大切な何かが欠落しているとか、そのようなことはなかった。暮らしのなかに「いざとなったら自分の利益のために300人殺す」が組み込まれていることは、現代ではありえないことでも、昔の政治家ならば、まあ普通なので、まあ普通だと思った。女を殺すことは拒み、子どもはかわいがり、学問も武芸も修練に怠りなく、息子に頼られれば、命懸けでかけつける・・・

 

まー人間ってほんとに、こんなもんなんだよね・・・ 矛盾してて。同じひとりの人間のなかに、いろんな側面が同居してて、一言では言えない。