BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『オールド』-210829。

『オールド』
M・ナイト・シャマラン監督、脚本
2021年、米

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1日で50歳ぶんも肉体の老化が進行してしまうビーチの謎。
そこに閉じ込められてしまった人びとの、必死の脱出劇。

あちこちに、わりと重大な穴があった気がするが、
それでもかなり集中して、最後まで楽しく観ることができた。

良いところが、たくさんあった。
家族どうしの、お互いへの思いやりに満ちたあたたかいやりとりや、
仲の良い姉弟の関係なんかは、みてて気持ちが良い。
みるみる若さが失われ容姿が衰えていくことにおびえる、女性の描写も良かった。

肉体だけでなく、心の変化も、一生懸命表現しようとしていたのが良かった。
子どもは思春期を迎え青年になるにつれ花開くようにめざめるように変化していく。
大人は、老いていくなかで枯れるようにしぼむように、変化していった。
とはいえ狭い浜辺で一日を過ごすだけの話なので、
そんな短くちいさな体験のなかで、心が「成長」するなんてありえない、と、
この映画を観る前までのわたしなら、思ったかもしれない。
でも、心の変化は、ある部分までは肉体の変化であると、
この映画は言っているのだなと思った。
そのように言われることに全然イヤな感じはなかった。

子どもの肉体が大人のそれへと成長していく様子を、
ひとりの子役が全部演じるのはさすがにムリなので、
推定年齢にあわせて次々とキャストが変えられていった。
見た目や雰囲気が似るように意識されていたけれども、結局は他人なので、
「違う人だな」という感じがあったとしてもしょうがなかったとおもう。
でも、撮り方が工夫されていたおかげか、キャストがどんどん変わっていくのに、
まったく違和感なく同一のキャラの何歳時の姿、として受け入れていくことができ、
やりかた次第でこんなにうまくいくものなんだなと思った。
違和感のなさが、予想以上だった。

大人は、ひとりの役者が特殊メイクの力と演技の力で、
最初から最後までみごとに表現しきっていた。
夜になって暗くなり、気温が下がるので上着をはおったりする流れがあるので、
自然な形で、あんまり何もかもハッキリ見せないようにできていた、というのも
うまかったとおもう。
それに、あのような状況に置かれたら、自分の姿をそんなにまじまじと
見たくなくなるのが人の当然の反応なのだろう。
自分の姿を見たがって鏡を探そうとしたのは、
あのメンバーのなかではひとりだけだった。

見た目の変化にいちいち大騒ぎする時間はとうにすぎて、
今も刻一刻変わっていくが、それでも変わらないものもある、とか、
変わっていくことがはたしてそんなに怖いことなのか、ということを、
じっくりと見せていたのが良かった。

妙ーなかんじの、冷めたユーモアも良い。

無自覚ゆえに、大人がヒヤっとするようなことを平気でやっちゃう
子どもの怖さ、魔性みたいなものも、なにげに、すくいあげていた。


微妙になんだかよくわからない、意味がありそうでなさそうなセリフもクセになる。
観てるうちにすこしずつ、わかるところが増えていく。

顔が売れた役者があんまり出ていないために、
登場人物たちがみんなどこかちょっと人形っぽいというか、
うまくいえないが、のっぺりとした匿名っぽさ?
というか一般の人っぽさ? があるのが、妙に不気味。

結末も、自分としては気に入った。

結末いかんや、「話がどこまで展開していくか」
「どんな奇抜な発想がうまれるか」ということよりも、
人が生きるということのなかの、非常に重要なことを、
ふと伝えてくれる、セリフなんかがあったのが、
自分としては、この映画の魅力に感じた。
そういうのはどれも、この映画の本筋とは関係なかったし、
たいして重要な場面じゃなかったかもしれないのだが。

しかしながら、女としては、どうしてもすこし、言いたいことがある。
月経を描いてなかった。
5歳かそこらの幼女と、11歳の少女が、ひとりずつ登場してた。
まあふつうに考えればふたりとも、
1日のなかで、初潮をむかえただろうし、生理があったはずだ。
ビーチの法則性にのっとれば、サイクルも早まるはずなのだ。
するとどう見えるか。どうなるか。
・・・そういうのが、もののみごとに抜け落ちてた。
女の体の変化を言うなら、月経は、欠かすことができないことに思えるが。
ビーチに取り残された人びとは、必死に小難しい計算をしたり、
議論したりして、自分たちの身に起きていることの解釈を試みていた。
でも、少女たちの生理のサイクルに着目すれば、
もっと簡単にある程度、答えが出せたんじゃないのかなとおもう。
あのメンバーのなかには、医者とか、頭の良さそうな人がいっぱいいたし。

血をおもわせる系のなまなましさが、かなり徹底的に、排除されていたんだよな。
そこは気になった。
それを「品が良い」と取るか、突き詰めかたがしょせんその程度、と取るか、
といったところは、観る人それぞれの、好みの問題かもしれない。

また、これを言っちゃおしまいかもしれないが、
彼らが海に入ることが容易に予測できるであろうなかで、・・・
あと、浜辺に残されていた物で、・・・
・・・いや、盛大なネタバレになりかねないからさすがにやめとこう・・・。

 

でもまあ、それはそれとして置いといて、と思うことができる映画だった。
ほんとうに最後までけっこう集中して楽しめた。
良いところがいっぱいあって、その良いところが、
いつまでも心をあたためてくれそうだった。

おもしろかったとおもう。