BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

においをかぎに横浜へ-191205。

「におい展」に行った。

nioiten.jp


においの感じ方の強度、形容のしかた、
好き嫌い、どれをとっても個人差があるのがおもしろかった。
わたしが「ひどいにおいだ」と感じるものも、
人によってはそれほどでもないどころか
「においそのものをまったく感じない」ということさえあった。

先に打ち明けておくと、
展示イベント全体についての個人的な印象は、
正直あまりかんばしくない。
またこのイベントが開催されることがあるなら
その時は改善されていると良いな~と思ったことが
いくつかあった。

展示まわりが、清潔とは言えない状態だったこと、
会場が非常にせまく小規模なためか入場料がいささか割高に感じたこと、
それから、説明不足で、その内容的にも不十分なのがやや気になった。

この、「説明不足」への、わたしの不満感はかなり強い。

たとえば、「(香水の)残り香にしばしば用いられる成分です」
というような表記があったのだが、意味がよくわからない。

香りの分野に関してはまったくの素人の、わたしなどにしてみると、
残り香とは、
「ひとりでに漂ってしまうもの」であり、
「意図して残す」ものではない。
だが、この説明書きからは
「ひとりでに漂ってしまう」というニュアンスは受け取れない。
調香において、残り香という香りのプロセスを、
その内容まで計算したうえで、意図して設けている、
というふうに伝わる。

成分を組み合わせて香水を作っていくなかで、
たとえば、ある花の成分が、
「時間差でにおいを発する」特徴を持っているとき、
それを応用して「残り香」として香るように設置している
・・・みたいな、そんな感じのことではあるのだろう。
「香水は『バラの花』の香りだが、
 残り香は『バラの茎』の部分の野性的な香り」
とかいった具合に、内容まで調整できるのだろう。

「残り香にしばしば用いられる」としているということは
「残り香は、作れるものです」ということを
来場者に理解させたい、と
少しは思っているのだろう。
ならば、調香の基本的な考え方、
香りの成分の組み合わせ方について、
多少なりと解説を付すべきだったのではないか。
香水作りについて良く良く理解している来場客など
そんなに大勢いたはずがないのだし。

だが、調香の仕組みについて伝えてくれる
キャプションボードなどは
まったくどこにもなかった。

においをかぐという「体験」に重点をおきすぎている
イベントだったという印象。

そこに知的体験という感じはあまりなく、
怖いもの見たさのアトラクション止まり。
楽しいのだが、何の意義もない、ということに
なってしまっているのだった。
とてももったいないことのように思えた。
「目に見えないもの」についての
こうした展示イベントは めずらしいので
とてもおもしろいものになる可能性があると思うのだが。

・・・
まあ、そんなわけで全体については不満もあった。
だが、普通にエンターテインメントとして楽しむことはできた。
というか大いに楽しんだ。

「ストレス臭」には衝撃をうけた。
「人生観」とか「人間の善性に対する信頼」みたいな、
・・・自分の存在の根幹にかかわる重大なものが、
においひとつであやうく崩壊しかける、
それくらいの悪臭だった。
音に聞く「くさや」「シュールストレミング」、
「ドリアン」などなどもあったのだが、
個人的には「ストレス臭」に比べたら
それらなんかは何ほどのこともなかった。
カブトムシが500匹くらいぎゅうぎゅう詰めで入っている
ちっちゃな飼育箱みたいなにおいだ、と感じた。

イヤなにおいだけでなく、芳香のたぐいの展示も多かった。
「武将のにおい」というめずらしいコーナーがあった。
織田信長が愛好したというお香の香りはややきつかったが、
厚い曇り空が割れてまぶしい陽光がさすように、
かぐと気分がスッキリする感じ。
明るさと、軽さがあった。
都会的な印象で、いかにも当時の女性たちに
モテただろうなと思わせる香りだった。

豊臣秀吉の香りが、案外牧歌的でほんのり優しいのに驚いた。
派手好きの成金趣味だったと聞くから、
香りの好みもそっち系かと思った。

「武将のにおい」をかいで、
「仏間のにおい」「実家のにおい」と形容する人もいた。

臭豆腐のにおいだけは かぐのをやめておいた。
わたしはお豆腐が大好物なので、
豆腐と名のつくもので少しでもイヤな思いをするのは、
どうも受け入れがたかった。

とにかく「ストレス臭」は強烈だった。
普段から触れている可能性のあるにおいなんだろうが、
感じやすいように、強めに加工されていたのだろう。
今回はっきりとにおいを覚えてしまったので、
嗅覚の「ストレス臭感知部門」がやたらと鋭くなったような気がする。
外を歩いていても方々でストレス臭を感じる。
もしかして自分がにおっているのかなと思って
何度も自分をくんくんしている。

どうやら自分じゃないみたいなのだが、自信がない。