BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『女王トミュリス 史上最強の戦士』-210227。

『女王トミュリス 史上最強の戦士』という映画を観てみた。
とてもめずらしい、カザフスタン製の、史劇ものの映画だった。


原題:Tomiris
アカン・サタイェフ 監督
アリーヤ・ナザルバエフ  脚本
2019年、カザフスタン

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ペルシャのキュロス2世の侵略に、
草原の部族の連合軍を率いて抵抗したという
マッケサダイ族の長、トミュリスの物語だった。
カザフスタン製の映画なんて、そうそう観られるもんじゃない。
実は去年ほかの映画を映画館に観に行った時に、
予告編でこの作品のことを知ってちょっと興味を持ったのを覚えている。
でも結局スクリーンでは観なかった。
戦闘の場面が迫力たっぷりで良かった。
ヒロインのトミュリスを演じた役者さんは、
意志の強そうなキリッとした瞳が印象的でカッコ良かった。
夫がキュロスの招待をうけてバビロンに出発するのを送り出す場面で、
「バビロンの美女たちに惑わされないで」と釘を刺したのが可愛らしかった。

トミュリスの夫と息子は、結局キュロスの奸計によって、バビロンで殺される。
キュロスがもちかけた屈辱的な提案(同盟という名の属国化)を、拒んだからだ。
キュロスは、トミュリスを完全になめていた。
夫と息子を葬ってしまえば、草原に残るのは細腕の女ひとりとなるので、
より手っ取り早くコントロールできる、と考えた。
キュロスは、トミュリスを自分の女にしてしまえば良いとさえ考えていた。
同盟とか属国とかそれらしいことを言ってはいるが、
やはりキュロスは、支配しようとする対象であるトミュリスなり草原の民のことを、
心も誇りもある「人間」として見ていなかったのだろう。
だからこういうことが平気でできるんだろう、と思った。
夫がいるなら殺しちゃえば良い、未亡人になったら俺がもらっちゃえば良い、
そんな風に扱われて、トミュリスがどう思うか、まったく、考えていない。
意思を持った人間としてみていない。
自分の思い通りになって当然だと思っている。
女は御しやすい、どうせ何もできない、とか思っているらしいところも
最悪だなと感じた。

戦闘シーンは良かったが、欲を言えば、
人間ドラマのほうにももうちょっとひねりが欲しかった。
たとえばトミュリスと、側近ティラスとの対比とか。
トミュリスは、よその村を襲って略奪した際に、
そこのある家の奴隷だったティラス少年を連れ帰った。
みなしごのティラスの境遇に自分と近いものを感じたのか、
彼女はティラスをそばに置き、やがて腹心の部下として育て上げる。
ティラスはその後もずっとさまざまな戦いを生き延び、
トミュリスのそばに居続ける。
物語の途中で死んだりせず、最後までずっといる、重要なキャラクターだった。
ならば、重要なら重要なりの理由、意味みたいなものが欲しかった。
トミュリスの影のような、鏡のような、
ティラスを見てるとトミュリスがわかるような、
照らし合う関係みたいなのが見たかったような気がした。

でもまあ、絶対ってわけじゃないけど。