BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想『王の運命 歴史を変えた八日間』-240304。

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18世紀李氏朝鮮時代の英祖という王の時代において、英祖が王子の不品行および謀反の嫌疑に怒り、大きな米櫃に息子を閉じ込め8日めに餓死させたという記録をもとに(反対派閥による事実上の謀殺だった?)、朝廷の熾烈な党争に翻弄されながらも王統をまもるため必死に生きようとする父と、愛に飢えながら父とわかりあえず孤独にあえぐ息子の確執をえがく。

 

おもしろかった。進行は倒叙形式で、まず米櫃の事件が起こるところから始まって、そこにいたるまでにどんなことがあったかを、主要な登場人物それぞれの視点で振り返っていく。構成がかっちりしてて、エピソードの選択と配置もうまくできていた気がする。おかげで何がいいたいかもよくわかり、最後まで集中して楽しめた。映像も美術も音楽も演技も気合がはいってて、緊張感が伝わり、すごく良い。

王族の喪の典礼とか伝統儀礼が少しみられたのもおもしろかった。 韓国の喪の色は白なんだな・・・。中国もそうだよね。葬儀関連の儀礼は仏教ベースみたいだったけど、わたしの知ってる仏教のお葬式とはぜんぜんちがった。楽器を打ち鳴らして夜通し歌ったり踊ったりする風習があるんだなー。仏教だけど、シャーマンみたいな人もいるみたいだった。いろいろミステリアスでおもしろい。

衣装もとても美しい。

 

ただ、何がいいたいかは理解できたしおもしろかったんだけど「共感」みたいなことが十分にできたわけではない気がする。家族関係とはいっても、一国を背負う王族となると、立場がわたしとはちがいすぎるんだとおもう。ただただ「王って大変だなあ」と思った、という感じ。
幼いころの息子は可愛らしく、利口で、とても期待をかけたのに、長じるにつれ勉強をなまけ始めたようにみえ、政治よりも芸事や遊びにうつつを抜かしていくようにみえ、それは「そうみえる」だけで、本人と膝つきあわせて直接考えを聞いてみたわけじゃないんだけど、でもそんな息子に失望し、それがやがて怒りにかわり、「子を思うがゆえの厳しい教育」の範疇をこえて、息子からしてみたら理不尽な叱責、当てつけ、いやがらせになっていってしまう。考えてみれば王は自分のことだけ悩んでいればいいわけではないんだよな・・・息子が後継者として不適格なのであれば、べつの候補を立て直さなくちゃいけないし、でも王だからといってなんでも自分の好きなようにできるわけじゃない。朝廷も一枚岩じゃない。もしも孫を候補にするならば、その父である不肖の息子の立場も守っておいてあげないと、孫の王位継承の正統性があやうくなってしまう。たとえば、息子がただのトンマならまだいいのだが、謀反を企てた反逆者となると、その子である孫は「犯罪者の子」ということになるので、その場合、どんなに将来有望な子でも、孫に王位を譲ることは困難になる。だから本当に息子が謀反を企てたのだとしても、その罪で裁くことは避けたい・・・ もろもろ家臣を納得させなくちゃいけないし後宮にも気を遣うし。あれやこれやなんだかめちゃくちゃ考えることがあって、王さま気の毒だなあと思った。そりゃこれだけ方々に気をつかって心の休まる時もないのに、当の息子がふらふらしてて、全然サポートしてくれないんじゃ、おやじとしてはムカっとくるよね。誰のせいで俺がこんなに苦労してるとおもってるんだ、みたいな。息子への信頼が揺らいでもムリはないかなとおもう。

でも息子もかわいそうだったな。いくらなんでもあんなにいびらなくても良いのにと思った。自分勝手に決めず父である俺に相談しろと言いながら、そんなことも自分で決められないのかと人前でバカにするという屈辱的なダブルバインドで心をくじき、さきにルールや事情を教えておくでもなしにいきなり仕事をやらせて、失敗したら頭ごなしにしかりつけ、国政がうまくいかないと、根拠もなしにお前のせいだと怒鳴りつけたりする。あれじゃどんなに強靭な精神の持ち主でも身動きがとれなくなって、本来の力が発揮できない。まして繊細な性格の王子が心を病むのはあたりまえだよね。かわいそう。本当は家族思いの、優しい人物らしかった。繊細で優しいことは悪いことではなく、ただそういう性格であるというだけなのだから、そんな彼の性格にフィットするやりかたで教育を施すことができれば、父とはまた違ったタイプの、よき為政者になれたかもしれない。

父とわかりあえず家臣にも味方してもらえず孤独だった王子も ちゃんと一部の人たちとは温かい人間関係を築くことができていた(すくなくとも一時期はそうだった)らしくて、そんな幸福な思い出のかけらを胸に抱いて死ぬことができたのは、少しは良かったのかなあとおもったりした。何より、彼の最愛の息子(のちの正祖)が幼いながらちゃんとお父さんの無念を理解していて、大人になってもずっと、お父さんの味方であったのがよかったね。