BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想『神弓』-240302。

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このまえ配信で観た映画。

 

丙子の乱(清朝による朝鮮半島への侵略戦争。1636年)をベースに、清軍に連れ去られた妹を奪還するため立ち上がった弓の達人の闘いを描く。

 

ふれこみと実際の内容は、かなり違った気もした。
具体的には、「10万の敵に弓一本で挑む」みたいなコピーになっていたんだけど、そんな壮大なイメージの話ではなかった。
たしかに理論上は敵のバックに10万いたことになるのだろうが、主人公が実際に相手どったのは、たぶん1000人くらいの部隊のうち200人くらいであり、それが6人前後になり、4人になり、最後は1対1になった。
もっと個人的で、コンパクトで、濃密な物語だった。
でも、主人公が弓一本で戦っていたことは間違いなかった。

 

オープニングから一気に引き込まれて最後まで夢中で観た。

 

撮影うま!
あんなの撮るの大変だよ。

 

ザクザク細かく切って粗く速くつなげていく編集と、ちょっとざらついた映像も、物語にマッチしてた気がする。音楽も物語と一体化してた。

 

弓の使い手の日々のルーティンを紹介するシーンがちゃんと用意されていたので物語に説得力を感じた。効率的な使用、弓のメンテナンスと新しい矢の生産、山と風について深く知り視野を広げることなど。

 

狙いをさだめて弓を引き絞るギチギチギチ・・・って音、めちゃくちゃ緊張感があって良い。

 

それに、構えたときに矢の先のところに人差し指を添えるらしくて、うわー、これ、皮膚が厚く固くなってくるまでは、きっと何度も何度も皮がむけて、血まみれになって、痛いんだろうなー、とか、ギターのコードを押さえられるようになるまでのつらいつらいプロセスに通じるものを想像して、ひとりもだえたりした。

 

敵には敵の信義や人間関係があって、みんないろいろ抱えてるんだ、ということが、理解できるようになっていて、どちらかサイドにだけ視点が偏らず、きちんとした人間ドラマだった。役者さんたちもみんな本当に良い・・・ 演じているようには見えなかった。その人物としてただ生きているように見えた。

 

主人公が愛用する赤い弓の由緒や性能は良くわからなかった。主人公の父が(どうやらその祖先も)大切にしてきたもので、父は自身の人生の終焉を予期したとき、息子に信用できる後見人をつけ、その弓を託した。弓の持ち手のところに、使い手の極意みたいなものを表す短い詩が彫りこまれている。弓として非常に性能が良いことは確かみたいだが、誰が使っても百発百中の魔弓というわけではない。風や射程など条件が揃い、使い手の腕も良くなければ、結局どうしようもないようではあった。

 

兄妹の葛藤、兄妹と養父母の関係についても、本当にさらっと触れる程度で、エピソードとしてはそこまでふみこんで描かれることはなかった。

 

でも、だから感情移入できなくておもしろくないというわけではなく、不思議なほどちゃんと伝わってきた。この人たちをもっと見ていたい、もっと知りたいと思わされたし、メインキャラクターたちのことはみんな好きになった。

 

誰でも的にあてられる魔法の弓のすごさを描くファンタジー映画なのではなく ある信念にもとづいて作られた家伝の弓を使いこなす、ある信念の男の、ドラマだったのだとおもう。

 

切ない物語のなかに、一本気な主人公の生きざまが伝わって、グッときた。
境遇を儚んで「俺なんて何やったってどうせダメさ」と、だらしない暮らしを送っていたけど、実は、誰も見ていないところで一人ですっごく頑張ってたことになるんだよな。しかも自分がすごく頑張ってきたということを、自覚すらしていなかったことになるはず。そうでなかったら、あのような人生の結末にはならない。