BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『Summer of 85』-210921。

『Summer of 85』を観た。
原題:Été 85
監督・脚本 フランソワ・オゾン
原作 エイダン・チェンバーズ『おれの墓で踊れ』

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80年代が舞台の物語だからなのか、
映像や色彩が80sっぽく、鮮やかで、
ちょっとペタっとしてて、優しくて、生々しかった。

フランスの海辺の街に家族で引っ越してきてまもない、16歳の少年。
ある夏の日、彼は地元の年上の青年と出会い、恋に落ちる。
少年にとってはこれがはじめての恋で、
彼は愛し愛されることの幸せに酔いしれる。
しかし、ある女性が現れたことによって、ふたりの関係に亀裂が生じ、
それはやがて思ってもみなかった形で、永遠の別れへとつながってしまう。

ラブストーリーと思って観ていたら、厳密にはそうではなかった。
単にラブストーリーとして観たとしたら、
よくある、どこまでも凡庸な、ふるくさい物語にすぎなかった。

たしかに、主人公の身になってみれば、
これは恋の痛みの思い出にほかならないのだろうし、
彼はこの夏のできごとをふりかえるたびに、
恋人との日々を懐かしみ、それが永遠に失われてしまったことを、哀しむに違いない。

でも、この物語は若い男の子のカップルの恋物語、ではなかった。

まだ、主人公は子どもだった。
学校に守られている。
親に守られている。
法律に守られている。
恋を知らない。
初対面のマダムに風呂場で世話を焼かれ、
パンツをおろされても、何も言えない。
海にでれば、ヨットもまともに操縦できず、
遭難しかけて、人に助けてもらわなくちゃならない始末だ。
そんな子どもだった彼が、ひと夏の恋をとおして、
傷付きながらも、大きく成長を遂げていく。
今まではどんなこともまわりの人に導いてもらって、やってきた。
選択のしかたを教わらなければ自分がすることを決められなかった。
でも、彼は、この物語の最後には、
みずから声をかけて親しくなった友だちを、
みずから操るヨットに乗せて、海にこぎ出した。

この映画は、ある少年が成長していくことの、可憐な「もがき」の物語だったんだと思う。