コーンの一粒まで、もちろんスープも一滴残さず、そしてチャーシューの一片までも荒木浩はたいらげた。「チャーシュー食べていいんですか?」と聞こうかなと思った。でもやめた。「あなた信者のくせにチャーシュー食べていいんですか?」「あなた殺生はしないってサリン撒いたじゃないですか?」眉をつりあげる自分が一瞬俯瞰した。
業者との癒着で厚生省を追われた高級官僚に、ボーナスを渡すことだけは何としても阻止せねばならないと社会面に大きく掲載することの吐き気を催すほどの正義感の発露。家族を晒し者にし、ボーナスをとりあげることが絶対の社会正義のこの国で、公判で不規則発言をくりかえす麻原の精神鑑定の必要性を誰も言いだすことができないこの国で、醤油で煮込まれた豚の肉を彼が残すべきことを、いったい誰が主張できるんだ?
『A マスコミが報道しなかったオウムの素顔』
角川文庫
180頁