BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『朝が来る』-201031。

英題:True Mothers
河瀬直美 監督
河瀬直美高橋泉 共同脚本
辻村深月 原作
2020年、日本

f:id:york8188:20201101010126j:plain

www.youtube.com

波にさらわれるようにいつの間にか引き込まれ、
当事者のひとりとなって、
物語の世界で生きさせられているような
感覚をおぼえた。

「この家には、親になれる人間が二人もいるだろ」
というようなセリフがあった。
これを聞いた時には涙が出た。

夫妻のもとを訪れた謎の若い女性の正体がわかった時は
本当に胸が痛んだ。

特別養子縁組あっせん団体「ベビーバトン」の女子寮で、
養子縁組関連の資料を盗み読んでしまう、という場面は
そんなことあるかね、と最初は思った。
でも、案外あるかもな、と 今は思う。
人手もお金も何もかも全然足りてなくて、
情報管理まで手が回らない、
そんな中で、有志の人たちが必死で活動して、
子どもの未来を守ってくれているのだと思う。

特別養子縁組のあっせんをやっている団体は
多分複数あって、
団体ごとにいろいろと、規定や方針が違うのだろう。
「ベビーバトン」は、登録希望者への説明会のシーンで
「養親となる夫妻のどちらかが
育児に専念できる状況であること」を
登録条件として提示していた。
共働き家庭の場合、登録の段階で夫妻のどちらかの
退職予定日が決まっていることが望ましいとのこと。
説明会を聞きにきていた夫妻のひとりが、
「我が家では妻の方が時短勤務をすることが可能で、
 夫妻両方の親の協力も確約がとれている。
 これなら仕事を辞めず時短勤務でも登録できるか」
と質問した。
「ベビーバトン」側の回答は「NO」だった。
あくまでも子どものために、
養親が育児に専念できる完全な環境を整えてもらう、
とのことだった。
なるほどそういう風になっているんだなと
実際的な所がちょっと垣間見られた気がして興味深かった。

あっせん事業団体は、養親の追跡調査や
アフターケアはしているのだろうか。
「ベビーバトン」のような条件、つまり
共働き夫妻のどちらかが仕事を辞めて育児に専念する、
という条件を、登録の段階ではのんだとしても、
養子を迎えたらすぐに就業を再開する養親も
いるのではないかな、と思う。
あっせん者側は、そういうのを、どこまで
チェックしたりケアしたりしているのだろうか。
でも、忙しそうで、そこまでやっている余裕も
なさそうだなという感じを受けた。

この物語の中でも、主人公夫妻が
産みの母親を名乗る女性から
「わたしの子どもを返してください」という
要求を受ける場面があるのだが、
あの時、「ベビーバトン」に電話して
産みのお母さんが電話してきたんですけど、と
相談してみれば良かったのに、と思うんだけど、
相談した様子はなかった。
(団体代表者の病気の関係で、
ベビーバトンの活動が終了した、
つまり相談したくても団体がもうない、
という事情の説明はあったのだが。
まあ、この際、主人公夫妻が相談する先が、
ベビーバトンじゃなくても良いんだけど、
警察に相談してみるとか、何か、
なかったのかなあと思わないこともないのだ)

ラストの展開はどうかなあと個人的には思った。
ああいう流れにしてしまうと、現実的に考えた時、
未来にろくなことがないということが
容易に想像できてしまう・・・
でも、あの展開がないと、
あまりにも救いがなく痛ましい結末になるので、
そうはしたくなかった、というのは、わかる。

彼女が、
子どもを返して欲しい、さもなくばお金が欲しいと
願った背景が、わかるような気がした。
自分が何者であるか、この世に自分の居場所があるか、
確かめることのできる、よりどころ? のようなものを、
見失っていたのだと思う。