疲れてたみたいで、昼すぎまで死んだように寝てしまった。のそのそ起き出して、本を何冊か手提げカバンにほうりこんで、駅前のカフェまで歩いて行き、お昼ご飯にサンドイッチをたべて、あとは日が落ちるまで本を読んだ。スポーツ雑誌『number』の別冊のランニング本を買ってあったので、まずはそれを読んだ。けど、わからない言葉が多すぎた。わたしは今のところは走ることが楽しいだけで、これまでも今も特にマラソンや駅伝に興味があるわけでもないので、ランニング界の著名人とかが何人も本の中に登場してたけどほとんど誰のことも全然知らなかったし(高橋尚子さんくらいは知ってたが)、「○○選手はA大会でいったん引退を表明しB大会に出たものの何位に終わりその後再び何年のブランクを経てC大会で自己ベスト」とかいったような選手のストーリーも、ぜんぜん知らないことばかりだった。でも割に「みんな知ってるよね?」ってかんじで話が進んでいたので「走ってる人はみんな知ってる話なのかなあ・・・」と。あと「サブ3」「ポイント練習」みたいな用語もまったくといっていいほど知らない。でもランニングはレベルも動機も目標も人それぞれ、年齢層とかもさまざまで、いずれにせよ走ることを楽しんでる人がとても多いことがわかり、すごく奥が深そうな世界だなという印象だけは持った。起き抜けだったので、わからない言葉を一つ一つ調べながら読もうという意欲までは湧いてこなくて、途中で読むのをやめて、あとはまた今度ということにした。
そのあと永瀬隼介の『黒龍江省から来た女』というノンフィクションを読んだ。2000年代初頭、千葉のちいさな集落においてひとりの男性が自宅でインスリンを過剰投与されたために植物状態となり(インスリンは糖尿病の治療に用いられるが、この人は糖尿病ではなかった)、彼の妻が保険金めあてで夫の殺害を企図したものとして逮捕・起訴され懲役12年くらいの実刑判決となった事件があり、本は、その事件の真相と、その後を追う内容だった。被害者が1人だししかも亡くなってないのに12年はけっこう重いよな。この夫婦とその一家をめぐっては、じつは他に自宅の火災と長男の両親の不審死、長男の大やけどなど、短い期間でいろんなことが起こっていた。起訴された妻は中国の黒龍江省のちいさな街で生まれ育っており、被害者である日本人の夫よりもひと回り以上歳下で、結婚したときはまだ20代前半だった。被害者男性は千葉の農家の長男で、田舎ではお嫁に来てくれる女性も見つけにくいということで、そういうところでは「では中国からお嫁を迎えよう」というのが結構あるそうで、彼も仲介者をとおした「お見合いツアー」で中国に渡り、そこで妻と結婚した。妻も日本文化や着物などの美しさに憧れ「日本の男はお金持ち」というイメージもあり日本で華やかな暮らしをして中国の実家にも仕送りして、みたいな夢を抱いて嫁いだのだが現実はもちろんそんなふうにはいかず彼女にとってみれば日本での結婚生活は幻滅の連続で夫は裕福でもなんでもなく、年上すぎるしおもしろみもなく、うまれた2人の子どもは可愛いが、子どもに何か買ってやるような贅沢もまったく許されず。やがて彼女は離婚したい、または夫を殺してしまいたいと考えるようになった。みたいな流れだった。永瀬隼介氏はフィクションの小説も書くけどわたしは彼はノンフィクションのほうが数段上手だとおもう。文章はやや硬すぎだけどそのぶんよく整っていて読みやすいし、取材は果敢で、手堅く的確。事件の犯人である中国人女性の故郷をおとずれる最終章はすごく良かった。映画で観たいよ。
黒龍江省出身の中国人女性が日本で起こした刑事事件、というと、じつはわたしは、滋賀県で起こった2幼稚園児刺殺事件のほうをよく覚えている。精神疾患の影響で「我が子が幼稚園でいじめられている」という妄想にとらわれた中国人女性が、我が子の同級生にあたる幼稚園児の男の子と女の子を、刃物で滅多刺しにして死に至らしめ、なきがらを道端に放り捨てて逃げた。通報があってすぐ地域に検問?が配備され不審な車がとまっていたので乗っていた女性をおろし中をあらためると車内は血まみれ、血のこびりついた刃物が転がっており、彼女が幼児を手にかけたことをほのめかしたので緊急逮捕、の流れだった。当時、警察署か拘置所に連れられていくときの女性の姿を、報道番組かなにかで観た。彼女は精神的に激しく混乱している様子だった。両脇を固めて歩く署員に直前まで力いっぱい抵抗していた形跡があり、顔を隠す布などをかぶせてもらっていたのかもしれないがそれも用をなさないほど体を振り立て頭はキョロキョロし、どうして私がこんなふうに扱われなきゃいけないの? いったい何がどうなってるの? 私はどうなるの? わけがわからない! 離して! みたいな表情だった。もし自分がしたことを理性的にしっかり理解していたならば、ああいう反応にはならないだろうとおもう。彼女は自分がなにをしたのかあんまりわからない状態なんだな、って、素人目にもわかった。そんな彼女のようすが強烈に記憶に残った。それに、「黒龍江省」という中国の省の名前を知ったのも、まちがいなく、この事件がきっかけだった。だから今に至るまですごく記憶に残ってる。図書館で、『黒龍江省から来た女』という本のタイトルをみたとき、この滋賀県の事件のことについて書かれた本なのかなとおもったから、手に取った。読んでみたら、ちがう事件だった。でも、この千葉のインスリン事件と、滋賀の幼稚園児刺殺事件は、たまたま、ほぼ同時期に起こったらしい。滋賀の幼稚園児刺殺事件についてのノンフィクション作品もあるらしいので、また今度読んでみたいとおもう。ただ、当時は、幼稚園児刺殺事件のこと知りたいとおもってたとおもうし、いまももちろん詳しく知れるなら知りたいのだが、一方で、精神疾患のある人がおこした事件ということで、どんな感じの論調の作品か、読まなくてもだいたい想像がついてしまうんだよな・・・ それに、あの事件の公判についての報道も気分がふさぐ内容だったということもかなり覚えてる。だから、本が出ていても、なんか、すでに読むのがキツいな。被害者遺族は、愛する子どもの命をとつぜん無残なかたちで奪われて、あれから20年ちかくたったわけだけど、心の傷は今も多分まったく癒えてないとおもう。あたりまえだよな。しかも犯人は異国からお嫁にやってきた女性だ。たぶん本人なりにせいいっぱい頑張って地域にとけこもうとしたけどやっぱり言葉も話せないし友だちもできにくいなかですごく孤独で、そうしたことも、彼女の心の病をいっそう重くしたんじゃないかな。・・・いろいろ考えただけで、だいぶ読むのがしんどそうなかんじ。でも読むけど。
夜になって本を読むのをやめて家に帰った。足に少し痛みがあったから今日は走らなかった。あした接骨院でリハビリがあるからそのとき一応みてもらおうとおもう。