BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『悪魔の手毬唄』-201012。

市川崑 監督
横溝正史 原作
1977年、日本

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邦画をこのところ全然観ていなかった。
たまには観ようと思ってこれを鑑賞してみた。

先に原作小説に触れていたので、
原作の方が好きかな、っていう感じがどうしてもしたけど、
この映画はこの映画で楽しめた。

小説においては、
歌名雄は、確か母譲りの音楽的な才能に恵まれ、
歌がうまかったりするので、女の子にモテる、的な
設定だったと記憶しているのだが、
映画ではその設定がほぼカットされており、したがって
「歌名雄」というめずらしい名前に説得力がなかった。
別に説得力がなくても良いっちゃ良いんだけど(笑)
歌名雄を演じていた人は北公次さんという人で、
人気アイドルグループ・フォーリーブスのメンバーだそうで、
だったら当然、音楽もできるんだろうから、
弾き語りでもするシーンを入れれば良かったのにと思った。
ちなみにこの映画での北公次さんは演技がヘタだった(笑)
これはわたしの想像にすぎないのだが、もしかしたらはじめは、
歌名雄の演奏シーンとかを入れる予定があったのかもしれない。
でも、北さんがあまりにも演技がヘタだったので、
なんとか見られる程度まで演技を付けることが急務となり、
その結果、演奏のシーンとかを入れる余裕がなくなって、
歌名雄から音楽的な才能というキャラクターそのものを
剥ぎ取らざるをえなくなったのではないだろうか(笑)

・・・

20年前の殺人事件の真相を個人的に追いかけ続ける
磯川警部を演じた、若山富三郎がとても良かった。
ああいうどっしりしたおじさんって良いよね~。
見た目はもっさりしたクマみたいなんだけど
この物語に登場する誰よりも心根が優しく純で、
5月の風みたいにスッとして気持ちが良くて、
ほっとできる、そんな感じを作品に吹き込んでくれていた。

村のアイドル・千恵を演じた仁科明子
きりりとした目元がステキで良かったと思う。

活動弁士時代の青池の、友人の奥さんが、
塩対応で笑えた。
愚鈍そうに見えて実はちゃんと状況を理解していて
金田一がはるばる探し求めてきた青池の顔写真を
素早く探し出し、投げつけるようにして去っていく笑
あの ふすまの閉め方、良いよな~。

恩田という男は、一言でいえばサイコパスだと思うけど、
彼の所業の悪魔的な感じは、
映画からはいまひとつ伝わらなかった。
そこがぐいぐい伝わってきたら
もっとこの映画をおもしろく感じることができた気がする。

「心底憎めたらあんなことにはならなんだ
 むごい男と分かっても好きやった」
というセリフに、人の心の複雑さや業のようなものが
良く良く込められている気がした。

だが、文子や泰子を果たして殺す必要があったのかと思った。
殺すことはなかったんじゃないかなと思う。

放庵が、とある秘密をダシに女を手籠めにしようとした件は、
秘密を握られた方が、その秘密をどう扱いたがっているか、
ちゃんと当人に確かめてみないとわからないと思うのだが、
(そんなのバレても構いませんけど? という人もいるかも。
 この秘密を知っているのは俺だけだ、というつもりでも、
 意外と村じゅうの公然の秘密ということもありえたと思う)
放庵がその秘密の「情報価値」を頭から信じているわけが、
この映画ではちょっとわかりにくい部分があった。

早く言えば、
多分、「誰が何をどこまで知っているのか」や
「なぜその情報がそれほどまでに重要か」といった
価値基準のマップ説明がきわめて困難だった、
ということが この映画からはうかがえた気がする。
村の二大勢力の力関係とかキャラクター相関を
頭に叩き込んでいかないとついていけない物語だが
そこの説明もちょっと映画だと限界を感じた。
でもそれはしかたない部分もあるというか。
映画だと、本みたいに、
わからなかったら前のページに戻って読み直す、
みたいなことができない前提なので。
こういう複雑な話を映画でやるのは、
どうやったって当然難しい気がする。

事件の真犯人の末路を描く終盤のシーンには
涙ぐんだ。
水に濡れた髪の毛が、白い顔にはりつき、
力なく横たわる、やせた体は
どこかしら可憐な感じさえして哀しい気持ちを誘った。