BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』-200711。

原題:Little Women
グレタ・ガーウィグ 監督・脚本
2019年、米

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これはすごく良かった。

それに見た目よりずっと複雑でかなり挑戦的なことを
やっていた映画だったんじゃないかなと思う。

監督は
「本当は、オルコットは『若草物語』の物語において 
 ジョーが結婚する展開を入れたくなかったはずだ」
と 言いたいのだと思う。

だけど結局は、オルコットはジョーを結婚させた。
オルコットはかなり葛藤したはずだが、
でも、作品の商業的な成功のためには
大衆に好まれるわかりやすい「ハッピーエンド」として
ヒロインの「結婚」が必要なこともわかっていたのだろう。
そういうことと、作家としてのプライドの部分で、
どう折り合いを付けたのか。
監督が『若草物語』を今、実写映画化するとなった時
あの物語に新しい生命を吹き込むにあたって
切り口にしたのはまさにそこなのだと思う。

しかも監督は、
オルコットが物語の中の女性たちに注いでいる
愛あるまなざしも、きちんと継承していた。
絵に描いたような良妻賢母マーチ夫人、
裕福な男との結婚が女の唯一の道と断言する大おばさん、
夫を愛し子どもを産み育てることに女の幸せを夢見るメグ、
内気で、ひ弱で、対外的には何一つことを成せないベス、
愛に野心的でクレバーなエイミー、
どの女性たちのことも、
オルコットが決して否定していないように
監督も、彼女たちみんなを愛情を持って描いている。
なぜならジョーが
どの女性たちのことも愛しリスペクトを捧げているからだ。
みんなある意味ではジョーの理想と相いれない女性だけど、
みんなジョーにとってこの上もなく大切な人たちだし、
この女性たちがジョーを育てたのだ。

監督のバランス感覚にはものすごいものがあると思う。 
多分、今この時代に『若草物語』を映画化する、
ということを考えた時
これ以上 的確なやりかたは なかっただろうな。

それを感じたからこそ、
ジョーがこんなことを言ったシーンを、
わたしは違和感なく受け止めることができた。 
「私は・・・、私がね・・・、
 思うのはこういうことなの。
 女には知性も魂も、才能も美もちゃんとあるの。
 だから『女の幸せは結婚にしかない』なんて、
 私は絶対に信じない。
 でも・・・、今・・・、
 私はどうしようもなく孤独なの!」
多分 場合が場合だったらもう一瞬で興ざめして
観るのをやめて映画館を出てしまっただろう、
こんなセリフは。
でも、そうならなかったのは
監督が原作をどう解釈しているか、
監督が何をやろうとしているのかが、
ここまで観てきて良くわかっていたからだし、
監督の原作解釈にわたし自身が完全に
同意できるからだと思う。


シアーシャ・ローナンが演じたジョーが
とっても魅力的だった。
フローレンス・ピューのエイミーも
これ以上のエイミーは望めないんじゃないかと
おもうくらい なんかもう、大好きだった。
感情豊かな所が良かったような気がする。
だいぶオーバーアクションで、
観ようによっちゃかなりやぼったいのだが、
そこがかわいらしいし、エイミーっぽいのだ。
過去と現在と行き来する形で描かれる物語のため、
年齢設定的にだいぶ無理があるシーンもあり、
ちょっと大変そうだなとは思ったけど。


若草物語』は何年かおきに読み返してるが
これまで一度も、それほど注目してこなかった所に、
この映画を観て初めて、目が行ったりした。
例えばジョーとエイミーの複雑な関係の、根深さ。
ローレンス老の、ベスへの思い。
スリッパのくだりとか、この映画観るまで忘れていたなあ。

いずれも、これまで、読んでもあんまり
ちゃんと考えて来なかった所だった。
でもすごく重要な部分だったのだ。