BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

読書感想-『特捜部Q 檻の中の女』-190922。

原題:Kvinden i buret
ユッシ・エーズラ・オールスン 著
早川書房

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この前、映画化作品を観た。

york8188.hatenablog.com

映画と小説では全然ちがうものになっていた。

映画版の犯人はわたしに言わせればサイコパスだった。
小説版の犯人は、異常に頭がキレるとかルックスが魅力的とか
他人を陥れることを何とも思ってないとか執念深いとか
・・・そういうサイコパス的傾向は、有していたにしても、
「他者と共感可能な恨み憎しみを抱えた人」として描かれていた。
犯人が犯行の理由を語った時 わたしは
「なるほどそういう風に思ったなら、
 こうしようと考えたのも無理からぬことだな」
と感じたし、積年の恨みを抱えて地べたをはいつくばって
そのことだけ考えて長い長い年月を生きてきたとしたら
つらかったに違いないと同情さえした。

小説の方が登場人物が圧倒的に多く 
事情もきわめて込み入っていた。
みんな血の通った良いキャラクターだった。
映画では頭がカタくてカールの足をひっぱるだけだった上司たちも
小説では中間管理職の苦悩を抱えつつ、カールの有能さを
何とか活かしたくてじたばたしていたのが楽しかった。
カールの行状について恣意的に書き立てた新聞記事を
無言で丸めておしりを拭くマネをし、投げ捨てる・・・
というシーンは楽しかった。

映画は事件のこと以外は何もかも全部スッキリさせ、
話をとにかくわかりやすくしていた。
そのかわりカールとアサドをしっかり個性的に描き出していた。

犯人像の描き方は、映画の方がスタイリッシュで良かった。

だがこのシリーズをこのシリーズらしくしているのは
生き生きとしたキャラクター、それから
デンマークの警察や中央の、複雑をきわめる政治情勢、
一般の人たちの暮らしぶりがわかる細かな描写だと思う。
小説では それらがあまり深刻になりすぎないよう
軽めの筆致で表現されている。
スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』は
先が気になり読み終えるまで眠れない、という感じだけど
『特捜部Q』は
この物語の世界が楽しいからずっと読んでいきたい、と
思わされるシリーズだと思う。

翻訳がなめらかでとても良かった。