BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『タロットカード殺人事件』-190817。

原題:Scoop
ウディ・アレン監督
2006年、英・米合作

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ウディ・アレン監督作品をできるだけ観てみようと
急に思い立って、
レンタルショップに足を運ばないでも
すぐ観られるものから、発表順につぶしていっている。
過去に観たものを、今また観ることはしてない。
Amazon prime video やネットフリックスでは
2000年よりも前のものはまず観られないとわかった。
昔のが観たいよなー。

・・・

※映画の内容に触れてますのであしからず。

・・・

舞台が、いつものようにニューヨークだったら、
成立してなかった物語だった。

上流階級って、な~んにも困ってないように見えるけど、
彼らには彼らで、そりゃまあいろいろあるんですってのを
見せたいなら英国じゃないと、だめだったんだと思う。
アメリカには王室とか貴族とかそういうのがないし。
ただのお金持ちだったら、いっぱいいるだろうが。

最初は、ピーターが殺人を犯した理由に
納得がいかなかった。
プロのおねえさんの10人や20人と
付き合いがあったからって、そんなことが
彼のようなセレブにとって何だろう。
ピーターの友人も親戚も、周りの男たちはみんな
口に出して言いはしないかもしれないけど、
似たようなことをしているんじゃないのか。
ピーターの父親だって、おおかたあんなもんで、
みんながやってることをピーターもやってた
ただそれだけのことだ、とわたしは思う。
それに、金なんかいくらでもある。
夜のおねえさんたちの顧客だったことが
世間にバレることを恐れたとか
脅迫されて金を要求され、首が回らなくなったとか
そんな理由で、殺人まで犯すなんて、変だと感じた。
一般人だったらそんな理由で殺すかもしれないが
ピーターは特権階級であるから。

あとでもうすこし考えてみたとき、
ピーターが本当に女性を殺したいと思った理由が
わかったように思う。

「金を要求されて身動きがとれなくなった。
 僕の人生とキャリアは、ベティの気分次第だ。
 だから殺した」
ベティの気分次第、ってところがポイントに思える。
つまり 
特権階級である僕には、金も地位も名誉もある。
心配ごとなんか、本来、ひとつもないはずだ。
特権階級たるもの、
庶民のような苦悩とは、無縁でなくてはならない。
どんなことも思い通り。気分次第で決めて良い。
それなのに、
(「夜の女のごとき」)庶民にふりまわされ、
ボタンを押せば金が出てくるATMのように扱われた。
そういう風に扱っても良い男だ、と思われた。
(こともあろうに「夜の女ごとき」に。)

口留め料が払えなくて困っていたわけではない。
女性を買っていたことがばれたくなかったわけでもない。
殺したくなるほどガマンがならなかったのは、
よりにもよって身分の低い、娼婦のような者に
「不自由」を味わわされたことだと思う。

ピーターを脅した女性は、
「もっと寄こさないと、あなたがわたしみたいな
 女を買ってるってことをメディアにタレ込むわよ。
 そうなったら事業や社会的地位はどうなるかしら」
とかなんとか、的外れも良いところなことを言い出したんだろう。
この僕を脅すだと? 
何を言い出すんだこの娘は。
要するにピーターは女性の
「何にもわかってやしない感じ」がムカついたので
殺すことにしたのだ。羽虫を手で払うような感覚だ。

なんてイノセントな差別感情だろうか。
おのれの気持ちの内容に、彼はいささかも
恥じるところがないように見えた。
「考えてみてくれ、僕は特権階級の男だよ!
 なのに娼婦に『いついつまでにお金入れてね』
 って毎月指図されて、そのたびに振り込んできたのさ。
 彼女との関係が世間に知れたらまずい・・・とか
 心配しなくちゃならないこともバカらしい。
 彼女と関わったというだけで・・・。
 普通に大人の時間が過ごせればそれでお互い
 満足なはずだっんだ。
 本当におかしいよ。
 僕は貴族で、彼女は娼婦なのに!」
そう言っているのだ。

ピーターは自分のなかに「こういうの」が
あることを、本当には理解していないんだと思う。

ピーターが夜の女性を買うようになった
個別の理由についてもちょっと気になる。
みんなやってるから彼もやってたんだろうけど
最初は買っても、性に合わなくてやめる、っていう人も
いてもおかしくないわけで、
買い続けた理由は、ピーターのなかにあるはずだ。
「君は(僕が)ふだん会う女性と違う。・・・
 君のそんなところが いい。
 あけすけで飾らない・・・」
サンドラを、彼はそうほめちぎっていた。
上流階級の女性たちは、
ピーターにとって、ちょっと退屈で、
「あけすけで飾らない」女性と付き合ってみたくて
夜の女性たちに近づいたのかもしれないし、
サンドラに、関心を持ったのかも。

監督は、
「こういう感じこそが上流階級ってやつじゃないですか」
と、言いたかったんじゃないかなと思う。

アメリカ人で、良家のお嬢さんでもなんでもないサンドラは、
ピーターに比べたらいろんなものから自由なのかなと
思えてきたりした。
お金も才能も、そんなにないみたいだったけど
美貌、健康的な肢体、健全な無知、何より若さ。
おもいっきりやりたいことやってて楽しそうだ。
あれだけ毎日のびのびやっていられるなら、
シドニーがうっとうしいことくらい、
全然、しょうがないと思う。
シドニーのうっとうしさには、観てるわたしも相当まいった)

同じアメリカ暮らしでもシドニー
神経質で心配症で理屈っぽくて
不器用で口下手で皮肉屋で・・・と
いろいろしんどそうだった。
でも、あの人はどこに行っても、しんどい。
で、しんどくても、どうせ頑として変わらない。
あれは絵に描いたような「ユダヤ人」なのだ。
※サンドラも、シドニーによればユダヤ系らしいが
 彼女は伝統宗教にもそのコミュニティにも
 あまり深く関わってないようだった。