BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

『レイリ』6巻-190511。

室井大資:画、岩明均:原作

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夜 散歩のついでに駅ビルの書店に行ったら
新刊がでていた。購入した。
完結巻とのこと。
おもえば案外みじかいマンガだった。
表紙画を見て、レイリが髪を長く伸ばしていることに
ほっとした。
武田信勝の「影武者」という重大な務めをはたすために、
ずっと短くしていたのが
戦国末期の女性らしいヘアスタイルになっている。
ということは
とりあえず彼女が変な場所で死に急ぐことなく、
こういう髪型ができるようになるまで
生きたらしい、そのことだけは確認できる、
そうおもったから、ほっとした。
女髪を伸ばせるようになった、すなわち、
影武者をやらなくてよくなったということだ。
・・・歴史の授業で、武田家のその後を習った。
そこからすると・・・
でも、とにかく死にたがる子だったので
ちょっと心配だったのだ。

長い間、レイリは、自分のため、
もっと言うと、死ぬために闘っていた。
でも、この巻では、
信勝のためだけに涙し、怒り、
刀をふるうところを見せてくれた。

レイリの心は傷つきすぎていた。
感情の種類も、濃淡も、深みも、
それゆえに乏しく、単純だった。
でも、ちいさな背中に一国の運命を負って立つ
武田信勝という少年によりそったことが、
彼女の心にとてつもなくおおきな影響を
及ぼしたとおもう。
信勝になりきり、しかも信勝を守るという
非常に変わった任務だが・・・それを務めきったことで
レイリはふしぎなことに、信勝の信念や思考、
人となりの一部を
文字どおり 体得していったようにみえる。
信勝になりきり、信勝をいとおしむことは
そのまま彼女が自分自身をいとおしむことを
覚えることにつながったのだとおもう。

信勝の死の事実が露見し
小山田信茂たちの侮辱をうける場面こそ
レイリというひとりの人物が
本当に生まれたときだったのかもしれない。
彼女は赤ん坊のようだった。
まだ愛情の扱いかたがわからなくて
自分と信勝の存在も未分化の状態であり
土屋にあたためてもらわなくては、
立っていられない。

レイリと信勝はじっさいには
まったくの他人なのだが
レイリが信勝をとりこんだようにみえた。
「すべての人にそれなりの事情や立場があり
単純にどちらが正しい悪いとかいったふうには
決めきれないことが、この世にはたくさんある」
そんな、けっこう複雑なことを
彼女が学ぶには まだまだ時間がかかるだろうと
わたしはおもっていたけど
小山田信茂に送った最後の別れのあいさつは
まさにこの「複雑なこと」を、彼女がいつのまにか
学び取っていたという事実を伝えていた。
あのあいさつは、すてきだった。

6巻の表紙画をみて、本当にレイリは
美しい女性に成長したとおもう。
晴れやかだが、どこか憂いをおびた
深みのある表情だ。
これからは、すこやかで幸福な人生を送ってほしい。
マンガの、架空のキャラクターなのだが。
でも、本当に心から彼女の幸せを願う。

武田勝頼・信勝父子の関係の問題などなど、
このままなにも進展しなかったら
かわいそうだな~とおもって
読んできた所が いくつかあったのだが、
それらが、いちおうすべてきれいに
最終巻で解決をみていて、よかった。

良いマンガだったと思っている。