BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

高橋和巳「邪宗門」考-小休止-190218。

老人の蓬髪のように、
すけた細い枝をからませあっている
対岸の灌木の茂みから、
ふいに数羽の鴉が飛びたち、
不吉に鳴き交わしながら空を舞った。
「どうしたんや、おっちゃん」
城址のあたりを凝視していた
千葉潔にむかって少年が言った。
そのとき千葉潔は、
遥かからの呼びかけの声を
きいたような気がしたのだ。
誰の声とも知れず、
彼の存在そのものを譴責するような、
同時に暗い死の世界に
吸いこむような呼びかけの声を……。

罪人よ、滅びの使徒よ。
何事もなしえざる善き人々を
行きて換わ(よばわ)り責めよ。
この穢土に
わずかの善を守って生くるは
禍いなるかな。
母の肉を食い、人のものを盗み、
戦いに人を殺して生きのびし、
血ぬられし手の罪人よ、
汝、救わるることなき故に、
この世を壊すより
生きる方なし。
高橋和巳邪宗門』下 第3部>

千葉潔のパラダイムチェンジが、
この瞬間に、このように
起こったのはなぜなのかとおもう。
「換ばわり責めよ」

「喚ばわり責めよ」
じゃないのかなあ
なぜ手偏の換にしたんだろう。
力ずくでこっちにひっぱってきて
責め立ててやるんだというような
ニュアンスをだすためだろうか。

・・・

高橋和巳はそんなに美しい文を
書く人じゃなかったと
わたしもたしかにおもうのだが
でも この人の言葉がわたしはすきだ。

美しくはないかもしれないにせよ
生々しく 烈しい文だ。
書き写してみて、
全体をながめると、
みえてくることもかなりある。