BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

高橋和巳「邪宗門」考-序-190129。

高橋和巳が すきだ。
初めて読んだのは
小説「邪宗門」(河出文庫)。

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いつ読んだんだったか・・・
でも30歳にはなっていたような。
学生じゃなかった。
宗教と人の心、宗教と社会、精神史、
重大事件とその真相・背景、
戦争、人心の荒廃、正常と異常、
国家の犯罪、死刑、などなど
そんなふうな言葉でくくれること全般に
なんだか昔から関心がある。
この方面のにおいがする本は
フィクション、ノンフィクションを問わず
読んでみたくなる。
邪宗門」は ある新興宗教団体の
興亡を描く物語だ。
自分の興味関心キーワードに
マッチしている。
小説の概要を先になにかで知って、
興味を持ち、手に取ったんだろう。

本を読んでどう感じたかなんて
そんなことくわしく書いても
しょうがないとはおもうが・・・
わたしが本書を読み終えたときの
衝撃は 
心というかむしろ体にきた。
後頭部をおもいっきり
鈍器で殴られた直後に
ヘッドロックされたうえで
前後左右に激しくゆさぶられるみたいな
無遠慮で力任せの 
ショックだった。
思い出ぶかい。

発表当時、この作品が、
学生さんなどの若い読者を震撼させ、
その後も学生運動家たちなどに
熱狂的に支持されたなんてことは
正直に言ってまったく、
なんにもしらなかった。
事情をあるていど知ったいまでも
けっきょく わたしにとって
邪宗門」はただの、
極限レベルにおもしろい小説
それ以外のなにものでもない。
(そしてこんなにおもしろいのに
邪宗門」を知らない人が
世間には多すぎる気がするのだが
いったい世の中どうなってるのか。
このような小説を書いた人が
「いまや忘れられた作家」とは
どういうことだ。おかしい。
若者よ、すぐに読もう!
河出文庫で買えるから。)
・・・
「ただのおもしろい小説」、
でもそれって
なかなかないな。
数を読んでると
だんだん 
おもしろさへの耐性ができてきて
先が読めちゃうし、
そういう自分は
1文字も書けやしないくせに えらそうに
ここがもっとこうだったらおもしろかった
とか 言ったりするようになっちゃう。
そうじゃない。求めているのは。
ただ圧倒的に専制的に
おもしろい小説が読みたい。
そう願って
探せば探すほど読めば読むほど 
出会いにくくなっていく気がする。

邪宗門」のおもしろさには
その「圧倒的」なものが、あった。
このような小説はいままでに
読んだことがないと感じた。
文字通り寝食をわすれた。
こんなにグイグイいったのは
10代後半~20代前半あたりで読んだ
小野不由美の「魔性の子」以来だ。

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これも おもしろかったなー。
魔性の子」は小野不由美さんの
代表作「十二国記」シリーズの
エピソードゼロ、みたいなところに
位置する物語のようなのだが、
あまりそのことを気にしないでも
独立した物語として楽しめる。
わたしは十二国記シリーズは
その後 1作も読んでない。

・・・
話がそれたな。なぜ小野不由美

邪宗門」読んでいた時期、
だれか つかまえちゃあ
邪宗門の話ばっかりしてた。
邪宗門のことしか頭になかった。
上下巻を プレゼントとして
友だちなどに熱く手渡したことも
何度かあった。
いやー うっとうしい・・・

そして、はっきり覚えてる。
読み終えたとき、こう思った。

「いったい、なんの目的で
こんな小説を書いたんだこの人は」。

高橋和巳という作家さんは、
39歳で亡くなっている。
病気だった。とても若かった。
邪宗門を出して
たしか5年か6年後の
ことだったと聞いてる。
こんなもん書いたから
寿命が縮んだんじゃないだろうな。

わたし、
彼は、邪宗門に、いったい自分の何を
込めようとしたのかなと 
何のために書いたのか、と
今でもそれが気にかかる。

大長篇のせいもあるかなとはおもうが
わたしの印象としては、
ものすごく何か言いたいことがある
というのだけはよくわかるのに
それが何なのかは わからない
みたいなところが この小説にはあった。
怒涛のいきおいで読ませるが、
読み終えてみて はっと
「あれっ、なんだったんだ・・・」って。

できれば
「なんだったのか」が知りたかった。
命を削ってでもぜったいに
(何かを)書くんだ、
という強い意志と 真摯さが
ぎりぎりと全篇から
伝わってきたからだ。
※もっとも
高橋和巳の小説は
わたしの感じとしては
だいたい いちようにクソまじめだ。
そんなに深刻にならなくても
もうちょっとリラックスしたら
・・・と
言ってあげたくなるくらい。

初めて読んだときは
高橋和巳が「邪宗門」において
何を言いたかったのか、
ぜんぜんわからなかった。

どう考えればそれがわかるかも
わからなかったし。

でも、当時よりもわたしは
大人になっているから、
・・・まあ、
ただ大人になったというだけで
何かスキルがアップしたとか
そういう自覚は少しもないのだが
・・・
もしかしたら
今ならもう少し
読みようがあるかも。

邪宗門」が好きだ。
書いてくれた高橋和巳が好きだ。
きわめて刺激的な
読書体験をもたらしてくれた。
だからできれば あきらめたくない。
初めて読んでからもう何年も経つが
もう一度 邪宗門を読んでみて、
高橋和巳がこの作品に何を
注ぎ込もうとしたのか
自分なりの結論を出してみたい。

これから何回かにわけて
書いてみるつもりだ。

結論が出なかったら 10年後くらいに
リトライしてもいい(保険)。