BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

下重暁子「鋼の女 最後の瞽女・小林ハル」-181118。

下重暁子
「鋼の女(ひと) 最後の瞽女小林ハル
(集英社文庫)

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瞽女さんは
とても愛されたんだなあ。
水上勉
「はなれ瞽女おりん」(新潮文庫)
なんかには
ぜんぜんそういうかんじの
描写がなかったような覚えがあるが。

書くこととは、つきつめると
何を書かないかを決めることだ。
本書の著者はたぶん
すべて知ったうえで
あえて大胆に削り落としている。
考えつくされた結果が
この内容なんだろうなと感じた。
だからありていにいえば
内容的にはかなりものたりない。
だけど
まるでハルさんそのひとのように
どことなく品があり、
こっちもいずまい正さなくちゃ
いけない気がするような
キチンとしたいい文章だった。


「ハルさんは今が一番幸せです」と
晩年のハルさんを評したひとが
いたとのことだが、
幸せかどうかほんとのところは
本人でなければわからない。

人が生きて死ぬまでのことで
だいじなことってなんだろう、と。
なにができれば
よい人生だった、となるのか。

まじめに生きたことや
かさねた努力は
かならず報われるのだろうか
そう信じたのに実感できずに
死んでいったひとは
報われたと言えるのだろうか。

報われなくても、
癒されなくても、
死ぬまでは生きるというだけの
ことなのかもしれない
意味とか考えてもわからない

たくさんつらいめにあったぶん
今度はしあわせがやってきて
どこかで
帳尻があうものだ、とか・・・
考えたくなるきもちは
ただのきもちで、
ほんとうはそんなの
だれにもわからない。

だけど
人がこの命を生まれて死ぬまで
社会にあって燃やしていくうえで
たいせつなのは
失敗の数をできるだけ
少なくすますこと、ではないし、
心に傷を負う回数や傷の深さを
極少におさえること、でもない。
いいように利用されないこと、
奪われないよう財産を守ること、
それもちがうんだとおもう。

失敗は無数、心の傷は極大、
他人に侵され奪われどおしだった
ようにみえるハルさんが
なのにこれほど清く美しいことの
説明がつかなくなる。