BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

九代目雷門助六師匠の顔をみにいった-180722。

静岡県藤枝市まで足を伸ばし、
九代目雷門助六師匠と
そのお弟子さんの
親子落語会をきいてきた。

藤枝落語会
藤枝市「小杉苑」14:00~
九代目雷門助六
雷門音助
江戸家まねき猫

お弟子さんが藤枝の出身だそうで、
その縁で5回めをかぞえる
(いや4回めだったかな?)
おそらくはおもに
地元のかたのための、
お楽しみ会みたいなものだ。

きょうび空前の落語ブームで、
ほぼ毎日、東京を中心に
どこかしらで高座がある。
わたしももっと近所での
助六師匠のスケジュールを 
知らないわけじゃないけれど、
なにしろこのまえ桂歌丸師匠が 
お空にいかれたことが、
わたしにとって大きかった。
助六師匠は70代。
この連日の酷暑、
縁起でもないがもしかしたら
歌丸師匠の天国落語会に
ひきぬかれるんじゃないかという
不安があたまにとりつき、
一回まずはできるだけ早く
顔をみておきたく。
近くで高座があるときに、とか
悠長なことを
いっていられる気分でなかった。

案の定というか
この藤枝の落語会、
会場に到着してみると、
コンセプトといい、
自分の場違い感がすごかった。
いまは子どもや若者にも
落語をたのしんでいる人が
ほんとうに多い。
だからもっと幅広い年齢層のかたが
くるんじゃないかなと
おもっていたのだが、
かなり本格的に、
「地元のお年寄り向け」。
いろいろな意味で、
お呼びでなかった。

おそらく お客さまはみなさん
ご近所さん同士だったのだろう。
そこに どう考えてもなにか、
まとっている雰囲気が
異質まるだしであろう
自分がとびこめば、
浮くのも道理というもので、
遠慮なくすっごく
じろじろ見られた笑。

・・・

でも、そんなことより、
助六師匠の元気な顔が
みられたことにほっとした。
あいかわらず小柄、
細くてうすくてかわいてて、
座布団のほうがよっぽど
ふかふかしてみえるくらいだったが・・・
声をはりあげずとも 
ハスキーボイスがよく通るわ
舞うわ踊るわ跳ねるわで  
おもったよりもずっとお元気そう。
ただ、夏バテで本調子じゃないよとは 
おっしゃっていた。
それはとても気がかりだ。
早く元気になってほしい。

助六師匠の噺によく登場する
「よっぱらいのおじちゃん」キャラ、
かわいくお行儀もよく、
罪というものがなくて、最高だ。
ほんとうにお酒をいれて
やっているわけでもないのに、
よっぱらっていることが
即座にわかるというか
人格そのものがパッと
スイッチするような あの演技。

あとで感じたことだが、
沈黙を恐れないところや、
あえてことさら
ゆっくりしゃべるところも
師匠のすごさなんじゃないかと。
噺家はしゃべるのが仕事だから
いっぱいしゃべるもの、
というかんじがあるけれども、
お弟子の音助さんとくらべると、
信じられないくらい、
しゃべってなかった。
しゃべってなかったし、
センテンスとセンテンスのあいだの
空白が、ときに、とてもながかった。
でも、ちっとも気まずくないし、
その「間」が、笑えるのだ。

驚いて二の句がつげないのだな、
パニックをおこしているのだな、
よっばらってうまく言葉がでてこないのだな、
そんなふうに 
黙っている登場人物のきもちや
立場が、よく想像でき、
おもしろさを感じることができる。

セリフをはっさない時間を、
セリフをはっする時間と同様に
きちんと自覚的に
コントロールしている。

そんなところはさすが、
なんじゃないかとおもう。

これからも、できれば長くお元気で、
名人芸をみせてほしい。
落語芸術協会公式サイトの、
助六師匠のスケジュールをみたら
情報が更新されていて、
9月の池袋演芸場
定席出演予定が記載されていた。
いくらか涼しくなっているはずの季節だ。
かならずききにいきたい。

・・・

お弟子の音助さんも、
すごくおもしろかったとおもう。
以前、浅草演芸ホールで、
たしか三遊亭一門のどなたかで
音助さんとおなじ階級・二ツ目のかたの
噺をきいたのだが、
あまりおもしろいとかんじなかった。
緩急がなく 早口の大きな声で
ずっとしゃべりどおしだった印象がある。
なにをはなしていたか 
今となっては
まったくおもいだせない。
わたしはなんにもしらなくて、
その日はじめて、噺家の階級や
修業期間などについての
概要を知ったところだった。
二ツ目は、
「真打」よりも下の階級だ。
あの三遊亭一門の二ツ目のひとも、
二ツ目だから、まだ経験が浅く、
余裕がないのだろうなどと
納得していた。

今回ききにきたこの藤枝の落語会
わたしはただただ
助六師匠を聞きにきたので、
こんなことをいったら悪いけど
二ツ目の音助さんの高座には
期待していなかった。
というか、意識の外ですらあった。
しかし、
音助さんは お歳のわりに
どこかどっしりとした
おちついた雰囲気のあるかたで、
場をなごませるトーク
とてもじょうずだった。
キャラクターの演じ分けが明確で、
情景が想像しやすかったし、
今どきの言葉
(「スローモーション」とか)を
織り込みながら 
わかりやすくはなしていくので
ひきこまれた。

助六師匠は たぶん、
どなったり理不尽なことをいったり
うえから押さえつけて
お弟子を萎縮させるたぐいの
師匠ではないのだとおもう。
音助さんは、
のびのびとやっているようにみえた。
師匠が 寄席おどりをするときに、
高座から、袖にいる音助さんに
「音助は さっき何踊ったの」と
声をかけていたのも自然な感じで、
お客さまの前だからというので
師弟関係に問題がないことを
アピールしている・・・
などといったかんじではなかった。
(そんなアピールが
ほかの師弟関係だとあるのかは
知らないが笑)
師匠は こんなことも話してくれた。
「さっき楽屋で、
大相撲で優勝したひと(御嶽海)の名前を
音助に教わって 
覚えたはずだったんだけど
5分後には忘れてしまって
また同じことを聞き、 
音助に
『さっき教えたじゃないですか!』と
言われてしまった」
楽屋のほんわかした雰囲気が
つたわってきたような気がした。

色物のゲスト・江戸家まねき猫さんも
とってもかわいくて、
たのしませてくれた。
初代の演技が録音された
レコードの再現とか
お父上やお兄さんと
リリースしたという初めてのCDの
エピソードなどをおりまぜて
動物の鳴き声芸をみせてくれた。
鳴き声の芸がうまいだけでなく、
アクションがなんだか
コミカルでかわいいのだった。
ネコちゃんの発情期の鳴き声、
などというのもやっていたが、
誘われてうれしそうにもじもじする
メスネコちゃんのようすを
かわいく表現していてよかった。

・・・

会場での
地元のお客さまがたと
自分との距離感については、
場違いすぎるわたしを
あわれにおもったのか
それとも、べつにあやしい者などでなく、
ただこの場を皆と同じく
楽しもうとしている仲間にすぎない、
と 理解してくださったのか、
後半は わたしと目をみあわせて
一緒に笑ってくれる奥さんなどもいた。

ご家族につきそわれていらしていた、
呼吸器をつけた
車椅子のおばあさんは・・
わたしが、世間話のなかで、
助六師匠が歌丸師匠につれていかれないか
心配で顔をみに とんできたのです」
と話したところ
「わたしもそう思って息子に頼んで
連れてきてもらったのよ~」
と共感をしめしてくださった。
そんなおばあさん、
御年90代とのことで
なんと返事をしたらいいやら
こちらが言葉に詰まった・・ 
うっかりあんな話に
もっていくべきじゃなかった涙。