BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『奇跡の丘』『スパルタカス』-191008。


このまえ、パゾリーニ
『奇跡の丘』観た。

原題:Ⅱ Vangelo secondo Matteo
英題:The Gospel According to St. Matthew
ピエル・パオロ・パゾリーニ監督
1964年、イタリア

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何年かおきに観てる。
みんな、じっと、わたしを見つめてくる。
ペテロが3回「知らない」と言ってしまって泣く所と
イスカリオテのユダ自死を遂げる所、たまらん。
死に向かって一直線に駆け抜けるあのスピード感。
正直、退屈な映画だと思うこともあるんだけど、
こうしてみんなに、じっと見つめられて、
ペテロが泣く所とユダが死ぬ所を観た時、いつも
やっぱり退屈な映画なんかじゃないんじゃないかな、
と、心がゆれる。




スパルタカス』(1960)も観た。

原題:Spartacus
スタンリー・キューブリック監督
1960年、米

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初めて観た。大作。
馬がいっぱい出てくるのが良い。
だが奴隷のスパルタカス馬術を身につけていることが
冷静に考えると解せない気もする。
祖父も父もみんな奴隷で、貧しく、働きどおしで、
まともな教育を受けられなかったはずなのに。
歴史上のスパルタカスのルーツはトラキアにあるそうで
確かトラキア人はトロイア戦争への参戦経験もある
騎馬民族、と聞いたことがあるが、だからと言って
トラキア人だったら誰でも馬に乗れたか、というと
そんなはずはないとわたしは思う。
貧しければ、馬を持つこともできなかったはずだ。
奴隷だったら、主人の家の馬の世話を任されることは
あっただろうが、勝手に乗り回せたわけじゃないだろう。
あと操馬を覚えるとしたら軍の騎馬隊に入る
・・・とかいった方法が考えられそうだが
もしスパルタカスの祖父や父が戦争に行ったことがあっても
貧しい家の出の雑兵では、
騎馬隊なんて、夢のまた夢じゃないのか。
ちょっと良くわかんない・・・。
スパルタカスが馬に乗ってたことが
何か、解せなかった。

キューブリック監督自身は、この映画の出来を
ちっとも気に入ってなかったそうだ。
製作で主演も務めたカーク・ダグラス
あれこれ口を出され、良いようにされたのが
イヤだった、というような話を聞いた。
キューブリックはこの一件でほとほと凝りて、
自分専用のスタジオをイギリスに開設し、
全部自分のやりたいようにやれる環境を確立したとか。
でも、キューブリック監督本人の気持ちはどうあれ、
スパルタカス』は、映画としては
まったく問題なくおもしろい。
全然、悪くない。

まあ、かなり長いけど。
それから、冗長でもあるのだが。
でも、そこが、わたしはかえって好きだ。

いわゆるジェットコースター展開とは程遠いおかげで、
あんまりドキドキせずに観ていられる。

スパルタカスとヴァリニアが
再会する所が気に入った。
ふたりは剣闘士養成所で出会って恋仲となった。
だがヴァリニアが、クラッサス将軍に気に入られ
ローマに送られることになってしまった。
しかし、スパルタカスが養成所の仲間たちとともに
一斉蜂起したのをきっかけに
ヴァリニアも逃亡を図り、スパルタカスと合流する。
「馬車から飛び降りたとき、
 奴隷商人が太っちょだから走れなくて、
 わたしをつかまえられなかったの」
そう彼女が話すのでスパルタカス吹き出し
涙が出るほどふたりで大笑いする。

クラッサスと、若き詩人タイアタスの
浴場の場面も嫌いじゃない。
クラッサスがタイアタスに寄せる
一方的な同性愛感情をほのめかしているんだろう。
ヌラっとした、思わせぶりな雰囲気が、悪くない。
ああいう雰囲気はもう今の映画では出せないと思う。
「カキも良いが、カタツムリも良い」(笑)。
クラッサス、みごとなまでに嫌われたな~。

スパルタカスとタイアタスの関係には
なかなか不思議なものがあると思う。
スパルタカスは 
「俺自身はとうとうできなかったけれども
 本当は俺も、こういう人生を送れたら良かった」
・・・という人生を まさに歩んできたタイアタスを
自身の「影」のように思っていたのかもしれない。
いや、
タイアタスを「光」、自分は「影」と 
とらえていた、と考えるのが妥当だろうか。
タイアタスは、スパルタカスが夢見る未来の象徴だった。
奴隷なんて制度はもちろんくそくらえなのであるし、
戦争なんか、しないですむなら、
誰にとってもその方が良いのだ。
人が自由を求めて命を賭けて闘うなんて、
本当はおかしいことなのだから。
詩人は詩を作って歌うべきだ。それこそが平和というもの。
スパルタカスは、タイアタスが
「武器を取って俺も闘いたいんです」
と意気込むのを聞いて、
二度と、誰にもこんなことを言わせてはいけないと、
思ったのだろう。
そして、自分の使命は
「詩人が詩を作って生きていける世界」を築くために
この命を大地に捧げることだ、と考えたのでは。
それだからこそスパルタカスは、タイアタスに
自分よりも一秒でも長く生きて欲しかった。
ふたりは、お互いを刑死させたくなくて必死に殺し合ったが、
勝ったのはスパルタカスだった。
※勝った方が磔の刑、という
 ルール設定はなんかおかしい気もするが(笑)
とても切ない。

クラッサス役のローレンス・オリヴィエ
さすがの名演。品がある。
彼の立ち姿を見るだけで、気圧される。
ムカツク貴公子感を、本当に良く出していた。
顔がまずムカツク(笑)。

クラッサスの心の動き、
彼がスパルタカスにとにかく執着するその理由を
もうちょっとネチネチと細かく描いて欲しかった。
今のままでも、わからないことはないのだが。