BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

読書感想-細谷正充編「イヤミス傑作選 あなたの不幸は蜜の味」-190720。

※ミステリー小説の物語の核心に触れてるので
 未読の方はご注意くださいね。






イヤミス傑作選 あなたの不幸は蜜の味」
PHP文芸文庫
編:細谷正充
辻村深月小池真理子沼田まほかる
新津きよみ/乃南アサ宮部みゆき
2019年7月 第1刷

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www.php.co.jp

沼田まほかるの名があるのを見て
あっ!と思って、
良く考えもせずに購入しちゃったけど
収録されていたのは、
この文庫への書き下ろしじゃなかった。
「痺れる」(光文社文庫)に
すでに収められている短編だった。

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www.kobunsha.com

わたし、すでに読んだことがあった涙。
でも、新津きよみという作家さんを知れたという
想定外の収穫があったから、
この本を購入したことは後悔してない。
新津きよみさんの作品は、これまで読んだことがなかった。

どの作品も、人が、できることならば死ぬまで、
自分の心にこういう部分があるという事実を、
自覚せずにおきたい、あまり深く考えずにおきたいと
思っている・・・そんな後ろめたい部分を浮き彫りにする
ミステリー仕立ての短編だった。
そうのを 人の心のイヤな部分のミステリーだから
略して「イヤミス」と称したりするそうだ。
すべての作品とも、主人公が女性だったのが気になった。
男性が主人公だとまとまりにくいテーマなんだろうか?
心にイヤな部分を持っているのは女性だけじゃ
もちろんないと思う。
男性の心のイヤな部分をちらとでも描き出していたのは
この短編集のなかでは沼田まほかるさんの
「エトワール」だけだった。
他の作品にも男性は登場したが、
いずれも主人公の女性から見た男性であり、
その人物像は、みんなひどく類型的。
「単純で、おめでたくて、マザコンで、
 女を性のはけ口としてしか見ていない」
といった感じの歪んだ像しか結んでいなかった。
つまり主人公の女性たちはみんな、
男性たちを求めつつも内心でバカにしている
ということなんじゃないかな、と思った。
わたしは、どの作品においても、このように、男性が
同じようにしか描かれていないことを退屈に感じた。
男性を主人公とする作品、
男性の心をもっと生々しく描く作品が
ひとつくらいあっても良かったんじゃないかなと思う。

また、その一方で、このようにも思った。
この短編集は、人の心の暗部を描くものであり
その「暗部」の種類は、各作品で異なる。
例えば「石蕗南地区の放火」で扱っているのは
「肥大化した自意識」、
「贅肉」で描いているのは
支配欲と嫉妬心、といった具合だ。
だが、実は短編集全体で1個の
統一された主題を扱ってもいる。それは、
「実は女は、男をかくも軽侮している」
ということ。

・・・

辻村深月「石蕗南地区の放火」
この作家さんの作品はどれも大長編という印象。
「冷たい校舎の時は止まる」
「凍りのくじら」
「ツナグ」
これらが、つまんなかった、とまでは思ってないが
あまりに長いので、読んでて疲れた。
3分の1の長さにできなかったのかと。
本作はスッキリ短くまとまってた。
短編の方が、おもしろいと思うな!
短編がうまい作家さんなんだなあ。
だが、

「驚きながらも、真実を知れば、朋絵は多分、私を見直す」

この1行さえ、なければ。
この1行さえ、入れないでいてくれたら、
本作こそ、本書に収録されている作品のなかで
最高傑作だと、わたしは思ったと思う。

・・・

小池真理子
「贅肉」
本作は著者のかなり前の作品で、
わたしは、小池真理子さんの別の短編集で、
過去にこれを読んだ。
その時から思っていたんだけど、
この、導入部は、いったい何だろう。
物語が、「小学校時代の友だちのお母さん」の話から
始まるのは、どうしてだろう。
友だちのお母さんは、すごい肥満だけど優しい人だった
・・・ってことだけで、この話を配置したのか。
わたしが知る限り、小池真理子さんは
そんなつまんないことをする作家さんではない。
だから、何か意味があるのかなと考え続けているのだが
何回読んでも、本作における導入部の意味がわかんない。
主人公とその姉の思い出の話から、
始めれば良いのにと、わたしなんかは思う。
思い出の肥満の女性は
「友だちのお母さん」だけど
主人公が問題にしたいのは
「わたしの姉」だ。
姉と、「友だちのお母さん」とでは、属性が全然違う。
それに、
主人公の姉が、この友だちのお母さんと
比較するに値する人物へと変化していったのは、
時期的に、もっとあとのことなのだ。
小学生のときの思い出を、
持ち出す意味がないと思うのだが。
でも一方で、姉の話も、友だちのお母さんの話も、
「主人公の過去」という点では、同じだ。
だから、なんか、ムダに混乱させられる。
どうして友だちのお母さんの話を入れたのか。
混乱を生じさせることに、何の意味があるのか。
そこが、わかんないんだよな~。

・・・

沼田まほかる
「エトワール」
この人の文章には
どこかしら突き放したような冷たさと、
わずかに狂気を含んだ美しさとが感じられて、
他にこんな風に書ける人は
絶対にいないだろうと思う。

・・・

新津きよみ
「実家」
限られた登場人物とシチュエーション、
ちいさなちいさな人間関係のなかで
ありそうでない話を作ってきたなあと思った。
家が戻ってきたとしても、
その時まで生きていられるかわからないから、
生前贈与じゃダメなのかなーとか思った。
正直なところを言うと、主人公の女性を見てて
ざまあみろ、と思った。

・・・

乃南アサ
「祝辞」
題材が古いなと感じた。
あと、展開が読めすぎた。
頼んでもいないのに、登場人物たちが
自分たちの今後を予測して、
それを言葉にしてしまっていたし、
しかも、本当にその通りになっちゃった。
何のひねりもなくて残念に思った。
もうちょっと、摩美と朋子という親友同士の関係を・・・
あのような結末になったことが納得できる程度に
詳しく描写しておいて欲しかった。

・・・

宮部みゆき
「おたすけぶち」
裁判の結果を明らかにするタイミングを、
あの段階に至るまで引き延ばした理由と、
兄を奪還したいと、あれほどまでに思う、
主人公の気持ちの背景が、不鮮明だった。
主人公が、妹でなく母親であったなら、
話が違ったかもしれないが。
主人公を今のまま、妹とするならば、
もうちょっと、お兄ちゃん大好き感を
ねっちょり書き込んでおいてくれると良かった。
でも
「兄を取り戻すには、何本の絆、いくつのしがらみを
 断ち切ればいいのか」
・・・この描写はすごくスタイリッシュ。
なるほどそういうことを思っているのか、と
ドキッとさせられた。

・・・

編者による、巻末の解説文は、ひどかった。
ないほうがマシだった。