BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

読書感想-角田光代「愛がなんだ」-190709。

「愛がなんだ」
角田光代 著
2003年 単行本刊行
2018年 文庫初版
2019年 文庫18版
角川文庫

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www.kadokawa.co.jp

この前 映画を観て、おもしろかったから、
文庫を購入して読んでみた。
わたし、角田光代さんと山本文緒さんを
混同しちゃってるみたいだ。
じつはずいぶん前に
「恋愛中毒」(山本文緒著、角川文庫)
を読んで、ぜんっぜんハマらなかったんだよな。
あれで山本文緒さんの小説をもう読まなくなって、
どこかで角田光代さんとまざったみたいだ。
角田光代さんは「八日目の蝉」(中公文庫)
くらいだな。読んだのは(おもしろかった。映画も)。

「愛がなんだ」、
単行本、2003年刊行だって。
15年前か。
読んでも、古い感じが全然しなかったな。
ヒロインの親友が「携帯電話を持ってない」
ってところくらいか。
でも携帯持ってない人なんて今もいなくはないもんな。

映画よりも、ヒロインがより一層ヤバかった。
好きな人のために尽くしすぎて
遅刻とか無断欠勤とか無断早退とか
勤務中の私用電話とかを繰り返したあげく解雇される
恋の悩みで頭がいっぱいでハローワークの失業認定日を忘れ、
失業給付を受けられなくなる
過去には彼氏の浮気の証拠探しに夢中なあまり
大学を2回留年する・・・

まあ大学留年はわたしも人のこと言えないが・・・

このとおり、ヒロインは相当ヤバイのだが、
だが、小説では、映画よりも
不思議と いろんなことそれなりに自分で
わかっている感じが強調されていた。
映画では、もっとポヤーンとした性格で、
わかっている部分もあるが、
病的にわかってない部分の方が多く
まだらな感じがあったと思う。

例えば
「自分のなかに、自尊心らしきものが未だにきちんと
 存在することに驚いた。そして、その自尊心すら
 不必要だと思おうとしていることに、さらに驚いた」
 (文庫版 P130)
映画では、ヒロインは、これを自覚してなかった。
会社の最終出社日に、同僚の女性から
「自分のことも(重要じゃないんですか)?」と問われて
きょとんとしてたのだ。

それから、
どんなワガママも通してきたおかげで
己の残酷さや傲慢さに鈍感になってしまった、
中国の王さまの話。
悪いのは王のワガママなのか、それとも
そういう王にしてしまった家臣たちなのか。
たしか映画では ヒロインが元から知っていた話ではなくて
誰かから聞かされるシーンがあったと思う。
それで、「あなたも好きな人のいうことをハイハイなんでも
聞いてあげちゃうから、男をつけ上がらせているのよ」との
指摘を受けるも、ヒロインはピンときてないみたいだった。
そもそも彼はワガママを言ってるわけじゃないよとか
なんとか わけのわからんフォローを必死にして。

このとおり小説ではけっこうヒロインは
自分の心に起こっていることとか
案外いろいろわかっていた。
でも、それでも、自分を止める気はないのだ。
わかっています的な描写がけっこうあったからこそ
「自分を止めようとは思ってない」感が強く迫ってきた。
映画よりも小説の方が そこは良かったような気がする。

あれほどまでに傷付いても、
「マモちゃんのそばにいたい」が最優先とは。
ヒロインは
「うまくいかなかった恋愛」(文庫版 P175)
と、ちゃんとわかっているんだからね。
過去形であるし。
自分の恋が 恋としては
もうとっくに終焉を迎えたことを 知っているのだ。

だから恋じゃないわけだな。
彼女のこれは、なんなのだろう。
「私を捉えて離さないものは、たぶん恋ではない。
 きっと愛でもないのだろう。
 私の抱えている執着の正体が、
 いったいなんなのかわからない。
 けれどそんなことは、もうとっくに
 どうでもよくなっている」
 (文庫版 P211)

わたしとしては ヒロインに
その執着を手放してラクになって欲しかったがなあ・・・
でも本人がこのままがいいっていうんならしょうがないか。
「神林くん」とのフェイク恋愛が 案外本物になったり
しないかな。
なったとしても また同じことの繰り返しか??