BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『さよなら渓谷』-190709。

大森立嗣監督、2013年、日本

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ものすごく徹底的で、よかったな。
とにかく徹底的だった。

98年の大学ラグビー部の集団性的暴行事件が
一部ベースになっていることは事実みたいだ。
ベースになっていると言っても、
事件の本当に概要程度のことだと思うが。
あと、多分2006年の、秋田県の児童連続殺害事件も
モデルとして少しだけ取り上げられているのだろう。

キャタピラー』(2013年)で、
寺島しのぶの相手役を演じていた
大西信満が出演してた。
キャタピラー』のときは、
彼のことも、彼が演じた役のことも何とも思わなかったか、
あるいはむしろちょっとキライくらいの感じだったが、
本作ではすごく彼のキャラクターが、好ましかった。
話が話だけに、笑顔のシーンが少なかったのだが、
大西信満が演じる俊介は、子ども好きという設定であり
スーパー銭湯の休憩ルームではしゃぐ子どもたちを見て
口元を少しほころばせた表情は、本当に印象的だった。

風景や、人間関係のありかたは、どことなく
『ゆれる』(2006年)に似ていたように思う。
真木ようこが出てたせいもあるかもしれないけど。
わたし彼女のこと大好きだ。

大森南朋も良かった。
彼が演じる雑誌記者が、
できごとの真相を突き止める探偵役だった。
俊介たちをめぐるできごとと、
この記者のプライベートは、本来、何の関係もない。
でも、俊介たちのことを知っていくうちに、
彼も自分の妻との関係を見つめ直していく、
というのがおもしろかった。
誰かとの関係を、修復したり発展させたりしたいときは、
相手が何かしてくれるのを待ってないで、
まず自分が頑張れば良い、っていうのはわかる。
でも、相手の反応が怖くて、
それがなかなかできないのも人情だと思う。
妻の一言で、記者が、ふっと素直になれたのが
いじらしくて良かった。

大森南朋とコンビを組む女性記者を演じた
鈴木杏もかわいらしかった。
彼女の神経がしごくまともで、優しくて、健康的で、
この物語にとって救いだった。

問題の、過去の事件が発生したとき、
直前までナツミといちゃいちゃしていた男子生徒が、
すなわち俊介だと思われる。
他の男子たちに「オザキさん」と呼ばれていたし。
画面が暗くて、声も判別しかねたのだが
そこは何度も観て確認した。
あの男子生徒は、他の男子がナツミに手を出すのを、
阻止しようとする態度を見せていた。
(結局、その場の雰囲気に流されてたが)
ならば、のちに 
ふたりの間にのっぴきならぬ関係が生まれたのも
理解できなくはないですね、ということに、一応なる。
せめて、俊介との間にあったのが単に憎しみだけでなく
「のっぴきならない」関係だったのだと
願わずにいられないくらい、
ナツミの過去は、何もかもが、悲惨すぎた。

憎悪から生まれる愛や、憎しみを含む愛もあるのだなと思った。

俊介は、ナツミのウソの通報のせいで
(「俊介は隣家の女性と不倫関係にあった」)
隣家の女性が起こした殺人事件の、
首謀者と疑われるはめになった。
だが、俊介は苦悩の果てに、ナツミがしたことを耐え忍んだ。
おそらく、みずからの負い目と、 
「俺たちは幸せになろうとして一緒にいるんじゃない」
という事実があったからなんだと思う。
でも彼は、やはり希望を捨てきれなかったのだろう。
ナツミと、「幸せをつかむために一緒にいる」関係に
なりたいという希望を。
自分はそう願っているのに、ナツミが幸せを拒んでいる、
その事実を受け止めるのに時間がかかったように見えた。

ナツミは、俊介との関係に幸福を感じることを
みずからに徹底的に禁じている所があった。
例えば、炊飯器を買い替えようかと、俊介が提案した瞬間、
彼女は急に、パタンと心の扉を閉ざした。
(このときの真木よう子の演技は素晴らしかった)
ふたりの生活が、間違っても
「幸せな暮らし」と似ることがないように、
ナツミは細心の注意を払っていたのだと思う。
幸せを受け入れるには、心が傷付きすぎていたのだ。

けど、俊介が彼女を探し出してくれると良いな、と願う。

それにしても お隣の子が殺された事件は、
この物語にとって、いったい何だったんだ。
考えてみても、位置付けがよくわからない。