BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

読書感想-小林泰三『因業探偵 リターンズ 新藤礼都の冒険』光文社文庫-190608。

退職1週間にして、曜日の感覚が失われつつある。
時間がより一層、ゆったりと過ぎていくように感じる。

もうちょっとシステマチックに生活していこうと思う。
来週から本気出す。

・・・

小林泰三
『因業探偵 リターンズ 新藤礼都の冒険』
光文社文庫

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www.kobunsha.com

良い気分転換になる。
なんか第1作よりもちょっとファンタジー色、濃くなっているな。
礼都は確か、もともとは自分が私立探偵を開業したくて
その資金集めのためにいろんなバイトをかけもちするようになった
という設定だったとおもうが、まだ開業できないのかねえ・・・
彼女が探偵になったらなったで、また面白い短編集が生まれそうだ。

本書は誤植がとにかく多くて、それだけは参った。
ブラックコメディであり、展開的にかなり「何でもあり」なので
ヘンな誤植をやられると
「誤植っぽいけど・・・でも・・・これが正しいのかもしれない」
という可能性も一応頭に残した上で読むはめになり、
非常にめんどくさいことになるので やめていただきたい笑
「彼・彼女」といった重要な代名詞を間違えたり
意味わかんないところで語尾に「?」とか付けるのやめて欲しい笑

この人の小説作品は、なんというか、まちまち。

ネジしめユルユル、お遊び感満載のものもあれば
・・・『わざわざゾンビを殺す人間なんていない』一迅社
   『因業探偵』シリーズ 光文社文庫
   『セピア色の凄惨』光文社文庫

「すべての小説でこのくらいちゃんと書けばいいのに」と
不思議に思えるくらい・・・
ほとんど別人レベルと言っていいほどバシッとキメてくる
超絶佳作までほんとにいろいろだ。
・・・『玩具修理者』短編集、角川ホラー文庫
   『人獣細工』短編集、角川ホラー文庫
   『殺人鬼にまつわる備忘録(「記憶破断者」から改題)』幻冬舎文庫

この両極の中間くらいが
・・・『アリス殺し』創元推理文庫
   『失われた過去と未来の犯罪』KADOKAWA

わたしはそのどれも大好きだ。
すばらしいのは、「いいわけ」をしないところ。
もっと精一杯面白くしなかった、
はっておいた伏線を処理しなかった、
・・・あれだけ書ける人であれば、読者の反応が
間違いなく正確に予測でき、あらかじめ補正が可能であろうに
それでも「やらない」方を選んだ、ってことが
読んでてはっきりわかる。
さては清書じゃなくラフに毛が生えたくらいのやつを出してきたな!
みたいな できばえのものが散見されるのだ。
一生懸命やったんだけどできなかったんじゃなく、「やってない」。
これでもくらえ感が半端じゃない。そこが大好きだ。
いいわけじみてなく、頑張りすぎてなく、
ダラダラ長くなく、感情移入を強要してこない。
もちろん、頑張ってて、大長編で、抒情的な表現の豊かな小説が
イヤなわけでは決してないが、
あーこういう風に書く作家さんもいるんだなあ・・・と
ニヤニヤしながら小林泰三作品に触れるようになり、
間もなく大好きになった。

わたしは、
東野圭吾の『パラレルワールドラブストーリー』
よりも
小林泰三の『酔歩する男』(『玩具修理者』に収録)
の方こそ、傑作だと確信している。
両者はだいたい同じ頃に発表され、題材としても類似している。
『酔歩する男』は、
パラレルワールド・・・』の半分以下のページ数で
パラレルワールド・・・』の何倍も濃密な世界を
描き出すことに成功していると思う。