BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

国際版画美術館「THE BODY 身体の宇宙」-190604。

東京都町田市の国際版画美術館の企画展
「THE BODY 身体の宇宙」を観てきた。

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hanga-museum.jp

月1回、わたしが講座を受けてる
在野のミヒャエル・エンデ研究家 須賀健太さんが 
前回の講座のときにこの企画展のことを話していらしたのを
覚えていて、行ってきた。

おもしろかった。
ウィトルウィウス的人体図の意味なんて全然知らなかった。
ウィトルウィウスが建築家だったことさえ知らなかった。
なるほど
「美しく均整のとれた人体は正方形や真円などの
図形のなかにぴったり収まるものである」
という理論をあらわしたものだったのか・・・
図をよく見ればその程度のこと 察しがついて当たり前
なのかもしれない。だが全然知らなかった。
意味を考えたこともなかった。

芸術家や解剖学者や医師たちにとって
人の体の作りや中身のことは、
昔から大きな関心事だったようで、
今から見ると正確じゃない部分もたくさんあるものの、
ものすごく真剣に考えて
当時できた精一杯の研究に基づいて作ったことが
ひしひしと伝わる図版ばかりだった。
デザインの面でも ものすごく斬新。
自分で自分の全身の皮をはがして
それをマントみたいに半身にかけて
ポーズをとってる男の図とか。
とにかく解剖図がみんななにかとポーズとってる(笑)
ドヤ顔で笑みまで浮かべているけれど
脳みそ丸出しですけど!!
自分の生首を自分の両手で抱えてますけど!!
全身に矢とか槍とか刺さってますけど!!
あと、人の臓器が石垣のように積み上げられたところへ
その臓器の持ち主であるところのガイコツが
旗をもってふんぞりがえってる図なんかもあった。

神話の英雄ヘラクレスは、いつの時代にも
筋肉もりもりでカッコイイ。

旧約聖書や、マタイによる福音書
エスの受難のエピソードの版画もたくさん見た。
アダムとイブのところなんかは男女の体を描く
格好の題材であったようだし。
先述のウィトルウィウスの理論の影響を受けて
美しくバランスのとれた体を表現しようとしたことがわかる
版画がじつに多かった。
ウィトルウィウスってそんなに後世に影響を与えた人だったのか。
もうほんと全然知らなかった。わたしが知っていたのは
レオナルド・ダ・ヴィンチウィトルウィウス的人体図だけだ。
そこから 意味とか考えようとしたことなかった。

建築と人の体に、相似や連関を見出す考えかたは
昔から決してめずらしくはないそうだ。
ちょっと違うかもしれないけど、
わたしもそれを実感したことがある。
住宅設備工事業の会社の広告を作ったときに、顧客が
「家を人の体に例えるならば、配線工事は血管。
体が問題なく稼働するように、全身に血液を循環させるもの」
といった表現を出してきたことがあった。
なるほど建物を人の体としたとき、確かにそういうふうに
言えるかもしれないなと思った。

建築と解剖学と芸術は親和性が高く、
このように建築家のウィトルウィウスの言うことが
芸術家たちに影響を与えたのだし
解剖学の専門書なのに、図版の芸術性が異様に高かったりする。

ギリシャ神話の誰だったかな・・・
男神はこっちを向いているが、女神は背中を見せている
といったものもあった。
人間の体のおもてうらを描くことを狙った構図なんだそうだ。

イエス・キリストの心臓(ハート型)のなかに
彼を拷問し刑死に追い込んだ刑具や武器が
描きこまれている、という絵もおもしろい。
どうやったらそんな構図を思いつくのか。
ムチとか槍、カナヅチが心臓の中に入っているのだ。

「嬰児虐殺」をテーマとする大作では
自分の子どもが殺されそうなのに抵抗して
兵士の腕にかみついてるおっかさんとか
細かいところまで本当によく彫られているのがすごかった。
当時の人びとの服装やヘアスタイルが実によくわかったし。
旧約聖書の楽園追放のところでは、
追い出されるアダムたちを描くだけでなく
背景までしっかり作られていて
遠くの崖のところによくよく見るとヤギのような動物が
たたずんでいたりした。

ネーデルラントで作られたイエス磔刑図の絵などは
刑務官がオランダの貴族の服装をしていておもしろかった。

カヤパの審問のところは
イエス・キリストは困ったような表情で
じっとカヤパを見つめているのに対し
カヤパはそれが気まずいのか、両手をこすりあわせて
エスと目が合わないように、下を向いていた。

芸術家は、人の体の、見えるところだけを描くにしても
見えないところまでちゃんと意識して描いているんだなあと
思った。

アルブレヒト・デューラーミケランジェロ
図版は 精細きわまりなく 本当に美しかった。