BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『アウトロー・キング スコットランドの英雄』-190529。

原題:Outlaw King
デイヴィッド・マッケンジー監督
2018年、英・米合作

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ちょっと前に『トレインスポッティング』を
観たところだったし、スコットランドが舞台の
映画が観たかった。
スコットランド英語をまた聞きたかった。
でも、結果的には、『アウトロー・キング』で話される英語は
アメリカンイングリッシュであったような気がする。
スコティッシュイングリッシュは 
すくなくともわたしの耳では
トレインスポッティング』ほどには
とらえることができなかった。
こはちょっとがっかりした。

だが映画はかなりおもしろかった。
主人公はロバート・ザ・ブルース、ロバート1世。
スコットランドの歴史に残る英雄王ということで。


スコットランドの諸侯たちは、
圧政を強いてくるイングランドを相手に
何度となく反乱を起こしてきたのだが、
いまや、徹底的に制圧されてしまった。
しかし諸侯の一角、ロバートは
もう一度、民族の誇りをかけてイングランドと闘うことを決意する。
彼は、つぎつぎとふりかかる困難を乗り越え
ようやくかき集めた何百だかの軍勢で
3000からのイングランド軍と激突することとなる。

記録だとスコットランド勢は9000、
対しイングランド勢が2万5000
だったみたいだが、話をおもしろくするために、
映画ではロバートの軍をより少なくしたのかもしれない。
ちなみにロバートの軍は、騎兵は史実でも確かに貧弱で、
数百騎しか用意できなかったそうだ。

本作は「バノックバーンの戦い」と呼ばれるこの決戦を
クライマックスに据える、戦記ものの映画だった。

派手さはない映画だったと思う。
衣装もセットも地味で、
わたしとしては、顔なじみのうすい役者さんばっかりであり
外人さんはそもそも顔がみんな似ているように見えちゃうし、
男は甲冑を着けちゃうから、もう誰が誰やら見分けがつかん。
ロバート役者がクリス・パインであることはさすがにわかったが
この人もそんなに華がある方の役者ではないと思うし、
お顔を中世の王さまらしくヒゲもじゃにしてしまうと
もうまったく誰なんだかわからない。

心を打たれるセリフなどもとくにない。

風景は美しいが。

だけど、つまんない映画だったか? というと
これが不思議とぜんぜんそんなことはなかった。
シンプルかつダイナミック、泥クサ系一直線。
ハデじゃないけど武骨なところがよかった。
話もしっかり作られていてわかりやすい。
ついでにいうと 
わたしのツボにハマる映画でもあった。
「騎馬がいっぱいでてくる昔の戦争もの」
「圧倒的少数派が巨大勢力に牙をむくストーリー」
VFXに頼りすぎないガチンコバトル」。

数百やそこらで3000からの大軍と戦えば、まず負ける。
えりすぐりの精鋭でも、どんなに作戦を工夫しても、
人が圧倒的に足りなかったらふつう負ける。
『スリーハンドレッド』(2006年)で、
レオニダス王と300の精鋭は
がんばったけど、負けた。
ラストサムライ』(2003年)でも
トム・クルーズ渡辺謙、負けた。
負けるけど、最後の一兵卒まで戦いぬいて、
多数派の心胆を寒からしめる・・・そんな展開こそ、
「圧倒的少数派が巨大勢力に牙をむくストーリー」の
醍醐味ではないかとおもう。

バノックバーンの戦いのシーンがいよいよ始まったとき、
わたしはそういう種類の感動を
この映画でも受け取るんだろうなーと思って観てた。

けど、バノックバーンの戦いは、ロバートが勝った。

バトルフィールドにズブズブの湿地をあえて選択し、
騎馬の足をからめとり、将棋倒しに次々転ばせ、
落馬したところを襲ってボコボコに、という
記録にもあるらしいロバートたちの戦略が再現された。
あの馬たち、ほんとに転ばされたのかなあ。
すごくかわいそうだった。ケガしてないといいんだが。
まー すさまじいまでの まさに「泥沼の戦い」。
泥だらけの血まみれで敵も味方もわけわからん。
斬るというより 引きちぎる、押し潰す、なぎ払う、叩き割る
なまなましく、むごたらしい肉弾戦。

残酷さといい、悲惨さといい、泥まみれっぷりといい
こんなもんだったんだろうな、本当に当時は、ってかんじだった。

敵側イングランドの事情でいうと、
卓越した軍略家だったエドワード1世が 
この戦争の期間中に死んだ。
息子のエドワード2世が急きょ王位を継いだものの
彼には父ほどの軍才はなかった。
スコットランド側にしてみればそのへんも有利に働いた
ということのようだ。

両国の関係が、まだ一応落ち着いていた頃、
エドワード2世とロバートには交流があった。
両者の間にはその頃からの深い因縁がある。
バノックバーンの戦いの終盤において、
エドワード2世は撤退する自軍におくれをとり
落馬した状態で置いてきぼりにされてしまう。
そこへたまたま宿敵ロバートとはちあわせ、
ふたりは一騎討ちをする流れとなってしまう。
ロバートもエドワードももうへとへとなんだけど、
ロバートはそれでも強い。エドワードは即負け。
いろんな液体を顔から垂れ流しながら
地べたを這いずりまわって助けを求める姿は、
王の威厳もへったくれもなく、相当みじめだった。
ちょっと気の毒。

こうしてロバートが、
戦争にも、男の戦いにも、勝った。
予備知識なしに観てたので、
この展開には心底驚いた。
勝つんかい!
いや、バノックバーンの戦いでスコットランド勢が
勝ったことは、まぎれもない史実だそうなのだが・・・。

捕らえられ、死を待つばかりだった
ロバートの妻エリザベスも解放された。
彼女はもともとエドワード1世の臣下の娘であり
イングランドスコットランド諸侯の関係が
まだマシだった頃に、
いわば政略結婚でロバートに嫁いだ経緯があった。
だがふたりの夫婦仲は幸福にもうまくいっていた。
このたびの戦争がはじまったことで、
エリザベスは国に連れ戻されていた。
ロバートとの離婚を強要されてこれを拒んだために
いったんは餓死刑に処せられたのだが、
戦争の終結にともない捕虜交換で生還をはたす。
このエリザベスという人、
純朴な感じの、ごくごく普通の女性だ。でも、
頭が良くて、大事なことを決して見失わない強さがあった。
彼女が夫との離縁を強要される場面は良かった。
脅されてブルブル震えているにも関わらず、
「わざわざ離婚を求められるということは、つまり
まだ夫は生きて戦っているのではないか」と看破した。
そうとわかると「絶対に別れない」とあくまで主張する。
両親は健在なので、離婚しても帰る場所はある。
ハイわかりましたとサラっと離婚届に署名しちゃえば
楽になれるではないか。
それなのに、別れない、夫が生きている限りは、と。
弱いのに、なんて強い人だろう。
この物語のなかで、特に何をしたってわけじゃないのだが、
その素朴な強さが、夫の信念のありかたと寄り添うように
さりげなく配置されていて、悪くなかった。
ちなみに、ロバートを支える強いハートはもうひとつ。
彼の従者でまだ10代くらいの少年だが、
遠征の間じゅう、王冠を肌身はなさず抱えて守る。
ピュアな忠誠心の輝きが印象的だ。

ロバートとエリザベスが再会する場面はほんとによかった。
エリザベスのちょっと低めのハスキーな声が 
笑い声となって弾け、耳に心地よかった。