BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

おじいさんを凍えさせた夜-181201。

おとといの20時くらいのこと
駅前の商店街を
散歩していたときに、
スーパーマーケットの
前あたりで、おじいさんに声をかけられた。
というか気づいたときにはもう、
お相手をしなければ
ゆるされないと感じる程度に
間合いを詰められていた。
「〇〇〇〇はどこにある?」
ききとれない
もう一度きいた
「〇〇〇〇」
・・・なんらかの、お店?
みたいなものの
場所をおたずねのようだ。
おじいさんと話し始めたとき
おじいさんの横を
買い物袋をもったおくさんが
足早にとおりぬけざま
わたしに
「ごめんなさいね、
わたし、わからなかったのよ・・・」
と言いおいて去った。
このおくさんも、おじいさんに
同じことを聞かれたんだろう。

わたし「〇〇〇〇って、お店かなにかですか?」

おじいさん「いやあ・・・」

?なにか要領をえない

わたし「〇〇〇〇という所は存じ上げないです」

おじいさん「じゃ、郵便局はないかな」

わたし「郵便局のちかくに、その〇〇〇〇があるということですか」

おじいさん「そう」

わたし「郵便局ならここを右に5分ばかりいくとありますが」

おじいさん「そうか・・・ありがとう」

おじいさんはスタスタ歩いて
郵便局の方角にむかい
わたしは反対方向へあるきだした

なんとなく気づいていた
なにかようすがおかしい
すこししか話してないけど
でも
叔父の家によくあそびにきている
亡き祖母の親友のおばあさんとか
もっと、ふつうに会話が成立する。
複雑な構文と、本人らしい言葉選びで話してくれる
それがおじいさんの話にはなかった
言葉やトーンに個性がなく、
一語一語にこめられた意味も、まずしい
おじいさんは
祖母の友だちのおばあちゃんとちがう
認知症かなにかの症状が
あるのかもしれない、と

認知症かなにかかもしれないという
頭がすこしはありながら
郵便局ならあちら、なんていって
ほうってきてしまった

ひとりにしちゃいけなかったのに!

後悔、うしろめたさのあまり
路上で完全に立ちつくした。
きた道をひきかえして
郵便局のほうに急ぎつつ
いまさらながら考え始めた。
・・・おじいさんは、
「〇〇〇〇」という場所に
行きたいみたいだった。
この界隈の地名ではない
もしかしたら入所している
老人ホームとかの名前かも。

郵便局に到着した。
まわりを何周かしてみたけど、
おじいさんの姿はない。
道に迷ってもっと遠くに
行ってしまったか。
足腰はしっかりしていらしたし。

絶賛4G回線でがんばる
わたしの携帯で
「〇〇〇〇 S市M区」
ネット検索したところ
今いるこの商店街のなかに
同名の施設が3つ ヒット。
高齢者向けデイサービス
居宅介護事業所
グループホーム
すべて同一の
社会福祉法人が運営しているようだ。
しかも、暗くてわたしには
どこにあるかわからなかったが、
たしかに少なくともこのうち
「居宅介護事業所」と
グループホーム」は
郵便局のすぐちかくのようだ。
おじいさんは 
まちがったことを言っていた
わけじゃないし、
それにやっぱり
3つのうちどれかの「〇〇〇〇」を
探しているんだとおもう。

それぞれの電話番号もすぐにわかった。
これらの施設に相談したら、
なにか協力してくれるかも。
3つのうちどこにかけようか・・・
もしおじいさんが〇〇〇〇に
「帰りたい」とおもっている、
つまりそこで「暮らしてる」なら
探しているのは
短時間預かりの
「デイサービス」とか、
「事業所」じゃなく
グループホーム
っていうかんじがするな。
さらに、
居宅介護事業所が
どういうものかわからないけど、
この施設群の事務局を
兼ねているんだとしたら、
電話してみる価値は
デイサービスよりは
あるような気がする。

そこで、
グループホーム
居宅介護事業所
デイサービス
の順に電話をかけてみた。

結果、なぜだか
デイサービスだけ、つながった。
グループホーム
呼び出し音が鳴り続け。
介護事業所は営業終了のメッセージ。

とっても気のよさそうな
明るいおくさんといったかんじの
女性の職員さん。
さて、かけたはいいが
いったいどーすんだという感じは
すごくわれながらしていた。
ただ、
おじいさんと 
高齢者向けサービス群〇〇〇〇に
関係があることはカタかった。
さっき、おたくとおもわれる場所の
名前をあげて、場所をしきりに聞いてくるおじいさんと会ったんだ、
おじいさん 迷子かもしれないから
探してあげてくれないかというようなことを
一生懸命話してみた。

わたし
「それで、おじいさんに〇〇〇〇は知らないといったら
じゃあ郵便局はどこだと聞かれたので、それなら知っているから、
ここでて右ですとか言ったら、郵便局に向かわれたので、わたしも
ひきかえして今郵便局に、来てみたんですが、いらっしゃらないので
せめて一緒に行ってあげるべきだった・・・
認知症かもしれないとおもって、
迷子になっちゃったかもしれなくて」

いやいや、小学生の作文でももうすこしマシ・・・

職員さん
「たしかに、うちには、
認知症の高齢者向けの
グループホームがあります。
おかけいただいたのはデイサービスで、要介護度の低い方対象なんですが。
グループホームに、
心当たりがないか確認します」

わたし
「寒いところで迷子になっていたら
責任の一端はわたしにもある
どうなったか、連絡をください」
携帯電話の番号をつたえて
とりあえず電話をきった。

おじいさんはそういえば 
そのつもりで外出したとは
おもえないほど薄着だったなあ。
上着は着ていなかった。
きっととても寒いだろう。
迷子になっていないといいが。

はやくも数分後、デイサービスの職員さんが電話をくれた。

職員さん
グループホームに入所している方が、20分くらい前から
ひとり姿が見えなくなっていて、職員が探していたところでした。
おしらせをもとに郵便局のまわりを探したところ、
いま、本人に会えて、一緒に帰ることができたそうです。
ご親切におしらせくださって、ほんとうにありがとうございました!」

グループホームの電話がつながりにくかったのは
おじいさんを探して職員さんが手薄だったからか・・・。

わたし
「よかった・・・ おじいさんに悪いことをしました
おかしいとおもったんだから ついていてあげるべきでした。
お風呂で、あったまってください(意味不明)」

職員さんは そんなわたしに何度も何度も謝してくださった。


わたしは、おじいさんと話していたそのときから、
もしかしたら、認知症かなにかで、
わけわからなくなっているか、徘徊をしているのかもしれないな、
くらいのことは かんづいていた。
だが、もてあましてしまったのだ。
そのときの心のなかを 点検してみる。
わたしには、
「おじいさんのきもちを傷つけることなく〇〇できるか」
という 考えが、あった。
その内訳はぜんぜん 
たいそうなあれじゃなく
こんなこと。
・・・
おじいさんの探し求める「〇〇〇〇」が、ネットで調べた結果
存在しない場所だった場合
(たとえばおじいさんの古い記憶のなかの、どこかでかかわった場所とか)
「〇〇〇〇」は、今ここにはない
場所なんだよということを
知らせたら 混乱させてしまうだろうし、
そういうことを回避しながら、
いるべき場所にお送りすることが、
自分にはできそうにない
頼れそうなのは
おまわりさんくらいのものだが
悪いことをしたわけでもないのに
制服の警官にかこまれて 
どーしたのー、なんて言われたら
おじいさんはとても いやだろうなと おもったり。

考えすぎだし 的外れ。

「なんの保護もうけていない状態の、認知症とおもわれるお年寄り」と
面とむかうのがほとんどはじめてで
どう 接したらいいか 
わかんなかったんだとおもう。
だけど どうであろうと
困っている人に頼られたとき
べつに 自分にできるのは 
いつだって たいしたことじゃない。
相手の現状を自分なりに把握して、
相手がしたいことを確認し、
自分になにができるか考え、
できることをする
それでよかった。
認知症を疑うのであれば
心配だから 最後までついていき、
ここが郵便局だけど、これでいいですか、
したいことはほかにないですかと
聞いてみてもよかったろう
やっぱり〇〇〇〇に行きたい
と、いわれたら
もう一度ネット検索してもいいし、
それこそ交番に行って、
調べてもらってもいい。
それでよかった。
それなのに
「いや 
おじいさんが 
せん妄的な状態なら
現実をおしつけて混乱させたら大変だ、
自分では、なだめられない」
とか 
起こってもいないパターンを
勝手にいくつも想像し
それはできない、それはできない・・・となって
しまいに おじいさんが 郵便局はどこ、と
自分でも対応できる(郵便局の場所なら知っていた)ことを
おたずねになったことを つごうよくとらえ
道をおおしえすることにとどまった。

身構えすぎたのだ。

けっきょくわたしが
最低限できることもやらずに
そうやって逃げたことが 
おじいさんをこごえさせる時間を 
延長させることにつながった涙

おじいさんにはほんとに悪いことをしたし
はずかしい。
ちょっとのことで あわてて自分をみうしなって。

おじいさんが、ホームに帰ることができてよかった。

おじいさんは、
「〇〇〇〇って、お店の名前かなにかですか」
とわたしが聞いたとき、
言葉をにごしておいでだった。
もしかしたらだが、
「〇〇〇〇」が
認知症の高齢者向けのグループホームだということを
できればわたしに 言いたくない、
そんなことに似たきもちが、働いたのかもしれない。