BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

アルスラーン戦記10巻-181011。

アルスラーン戦記
(荒川弘コミカライズ版)の
10巻がでてた。

kc.kodansha.co.jp


クバードメルレインのところ
とてもたのしかった。
クバードがでてきてくれると
ほっと息がつける。

ヒルメスが成長していくようすが
原作よりもわかりやすいかたちで
描かれていると感じた。

ヒルメスにはヒルメス
ああでなくては生きてこられなかった
深い事情があり
彼なりにいつだって真剣だ。

ただ・・・
ヒルメスはもう大人であり
性格のせいもあり
かんじんの成長の速度は
アルスラーンよりもおそく、
程度も小さい。

というか いまおもったのだが
おなじ成長でも、その方向が
ヒルメスアルスラーンとでは
真逆だ。

ヒルメスは内へ過去へと掘り進み
アルスラーンは外へ未来へとひらいていく

ヒルメスアルスラーン
パルスの王位継承権を主張する者、
という立場はおなじで
それが彼らのありかたの
重大な基礎になっていること
彼らの成長の動機付けに
深くからんでいることもおなじ。
それにどちらも
それぞれのわけがあって
立場が磐石とはいえず
戦って奪い取らないことには
王位につくことがむずかしい。
自分の立場をよりよくするのに
どちらも味方を求めている
味方を納得させるためには
王の器たるものとして
きのうより今日、去年よりいま
立派でなくちゃならない
よくなっている、よくなっていく、
自分は正しいと証明し
成長しつづけなくちゃいけない。

ヒルメスの成長は
ヒルメスが成長したいときに
彼のためだけに、起こる。
アルスラーンのそれは
アルスラーンが成長したいときに
起こるのではないが
自分のためでなく
今このときのためでもなく
人のため国のためにこそ
大きくなっていく

ヒルメスがだいじなのは
王になってなにをするかじゃない。
王位を簒奪された父のうらみをはらし
自分の顔に消えない傷あとをのこした
アンドラゴラス陣営への復讐をちかう
アンドラゴラスやその息子アルスラーン
王位にあるのはまちがいであり、
正しいかたちにもどすこと
自分こそ正統の次期国王と
みんなにみとめさせること、
それがどんなことよりだいじだ。
父を殺したアンドラゴラス
ぜったいに許すことができないから。
そのために必要とおもえばこそ
かたくななところをすこしはゆるめ
ふつうならくさいものにフタ、の
自身の深刻なトラウマとも、
勇敢に立ち向かう。
だけどそれはいつも
自分が許せる範囲内で、だ
自分ひとりの努力によってのみ
壁をつきやぶって一歩前に進む。
自分の目がとどき腹のうちがみえる、
ほんの数人の者しか信じない。
ヒルメスの部下たちは
彼に心酔してはいるが
あくまで
ヒルメス殿下のおおせのままに」。
ヒルメス
彼らの力を自分がほしいときに
ほしいぶんしか引き出さない。
そうやって
自分ひとりでできることしか
やらないのがヒルメスだ。
王族のおぼっちゃんだから
みんなが自分のいうことをきくのは
あたりまえなんだろうが
そのわりにまわりを頼ることや
まわりの力を活かすことはしらない。
でもそれでちゃんとやれていると、
ぬかりはないと思い込んでいる。

アルスラーン
国王になってからのことを
いつも考えている。
それにヒルメス
決定的にちがうことがひとつ。
アルスラーンの周囲には
彼よりも優秀で能動的な
部下がたくさんいる。
部下たちは王太子の夢を
かなえていくための
道づくりに助力をおしまない。
アルスラーンのやりたいことを
実現するのに
何千何万の人や莫大なお金が
適切に動く。
アルスラーンには
こんなことが可能だと想像すら
できなかったようなことが
短時間で、効率的に、形になる。
アルスラーンがそれを
受容できるか使いこなせるかに
関係なく、さきに道が作られる。
たぶん
やっぱりこっちじゃなく
あっちに行きたかった、
そうひと言いえば
部下たちは身を粉にし夜を徹しても
道を作りなおしてくれるだろう。
それを考えてアルスラーンは驚く。
でも怖じ気づかない。
これだけやってくれたみんなを
がっかりさせない王にならなくちゃと
結果にみあう成長をしようとする。
それが自分に可能かとか
自分がやりたいかんじの成長かとか
そんなことは考えてない。
日に日におそるべき速度で幅で
ダイナミクスレンジを
おしひろげていく。
アルスラーンは自分のためでなく
自分のために働いてくれる人、
国のためにこそ
限界知らずの成長をとげる。

ヒルメスはどこまでいっても
ヒルメス、なんか変わったな」
ヒルメス、すこし丸くなったな」。
だがアルスラーン
ちょっとみないうちに
「これがほんとにアトロパテネで
ひーひーいってたあの子どもか」
と見違えるほど、変わる。


アルスラーンは、
自分の存在は
自分ひとりのことじゃないと
しっている、という意味で
王の器。

ヒルメスも世が世ならと
いちおうわたしもおもう。
でも
つらかった過去の境遇からくる
つよい猜疑心や攻撃性、
苛烈さ、偏狭さ。
ごくちかくにいる男たちは
彼の孤高に惚れるだろうが
すごく誤解されやすく
敵を作りまくり
不器用でさびしい人物だ。
がんばっているけど
いまのかんじで、しかも相手が
アルスラーンのような男では、
かわいそうだがまにあわない。