BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

庭のおじさまと電車のおじいさん-181109。

おととい、アパートの内庭の
除草作業をしてくださったおじさまは
きのうもきていたみたいだが、
お会いすることはできなかった。


・・・


けさの電車内で、
わたしのまんまえに
座っていらした
90も越えていそう、というかんじの
おじいさんが
からだのまえに立てていた杖を
倒してしまった。
わたしのほうに倒れかかってきたので
キャッチしてそのまま
おじいさんのほうに向け、
手にもたせてあげようとした。
けれど、そのとききづいた。
おじいさんは手の指が
10本中9本までなかった。
左の親指以外は
完全に欠損してつるっとしてるか
ちょっとだけあるが
根元がやや盛り上がってるくらい。
その見た目にびっくりしたことを
隠すことはとうていできなかった。
手がお悪かったんですね・・・、
と とにかく自分がおもったとおりの
ことを言うしかなかった。

「かったいでのうなったよ」。

かったい。

それでもしかしてとおもい
おじいさんのお顔を
まともに見てわかった。
おそらくハンセン病だった。

ハンセン病のじっさいの
もと患者さんと会うの初めてだった。

北條民雄の作品や
石井光太の「蛍の森」(新潮文庫)で
ハンセン病、またはその患者さんを
「カッタイ」と呼ぶシーンが
あったから覚えていた。
(漢字変換すると「癩」が
ちゃんとでてくることに今きづいた)
でも作中での「カッタイ」は
あきらかに蔑称
(身内に感染者がでた家を
「あそこのうちはカッタイ筋」と
陰口をたたいたりする)
それに
あるきまった地域だけでの呼び方と
いうかんじでもあった。

いまもこの言葉があるのか。
それも患者さん本人が
ご自分について
カッタイ、と言うのか・・・

でもわたし、
なにを言えばいいのかと。
なにも「正しいこと」というか
おじいさんにとって失礼じゃない
反応ができる自信はなかった。

「その言葉、本で見たから知ってます」。

「なーんも。
かったいもんがでてくる本かよ」

「でてきます。すごくいい物語
だったとおもってます。」

「俺のツラをあんた怖がらないね」

でもびっくりはした。
きっとびっくりしちゃったこと
ばれただろうなあ。

もうどうしていいか
ぜんぜんなにも
わからなかったから
おじいさんの
指が1本ある左手のほうをとって
倒れてきた杖を
その指にかかるように
もたせてあげた。
おじいさんの手はちいさく震えてた。
ひんやりしていた。

また会うことがあるかなあとおもう。