BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想をおもに記録しています。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

読書感想-松田美智子「新潟少女監禁事件 密室の3364日」-180828。

きょう読んでみた。

松田美智子著
「新潟少女監禁事件 密室の3364日」
(朝日文庫)

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https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=10126


事件や公判については
Wikiなどでだいたい知ることができる。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E6%BD%9F%E5%B0%91%E5%A5%B3%E7%9B%A3%E7%A6%81%E4%BA%8B%E4%BB%B6

わたしがこの事件のことについて
よくおぼえているのは
被害者の女性(監禁時9歳、救出時19歳)が両親などに語ったというコメントが
いずれもとても表現ゆたかで
詩的ですらあったことだ。

たとえば、救出されたのち、
見舞いにきてくれる家族や友人と会うと、そのときはたのしいが、あとでどっと疲れてしまうという。そのきもちについて
「九年間、私がいない間に流れている川があったとして、私が戻ってきて、またその川に入りたいんだけど、私が入ったがために水の流れが止まったり、澱んだり、ゴミがつまったら嫌だから、私はこっそり見ているだけで、入れない」。
・・・

ずっととじこめられて
ひどいめにあわされ
心が壊れてもおかしくなかったのに
彼女のこの表現力、言葉の力が
残っててくれてよかったなあ
とおもったのを覚えている。


さて、本書は
わたしには
あんまりおもしろくなかったし
とくに目をひく「新事実」とかもなかった
ほぼ傍聴記録とその感想文、というかんじで、まじめな内容ではあるが、つっこんだ独自取材とかはされてない。
でも
加害者の生い立ちについての情報や
加害者のお母さんの肉声がかなり多めに
盛り込まれていたのはよかったとおもう。
この事件についての本はまとまったものはそんなになくて
新聞や年鑑みたいなののほかは
毎日新聞の新潟支局編集の単行本や宝島社新書かなにかのだけしか
読んでないが
それらのなかでも
本書ほどちゃんとは
加害者側の情状についてふれてなかったとおもう。

ところで
被告人に本格的な精神鑑定をおこなうかどうかが 公判の序盤で検討された。

専門家は
精神分裂病(統合失調症)とはちがうよ」
「被告人にはたしかに強迫性障害とか人格障害があるみたいなんだけど、それが犯行に影響したってほどじゃないよ」
という意味の所見を提出している。
つまりちゃんとした精神鑑定をするまでもなく、責任能力はあったよ。というかんじだ。
だからあきらかに
「あ、じゃあ精神鑑定はしないっぽいな。精神鑑定をすると時間がすごくかかるけど、しないなら比較的早く裁判がおわるな」
というムードだった。
ところが専門家の所見をきいた裁判長は
「では精神鑑定をします」
と結論付けた。
これは当時
報道をかなりチェックしてた
わたしもびっくりした
あきらかに
「やらなくていいよね」
ってニュアンスだったのに?!と。
メディアもにたようなことを
感じたらしく
閉廷後の弁護人会見で
裁判長の判断についてどうおもうかと聞いた人がいた。
たしか弁護士さんは
「よくわかんないけど、念には念てことじゃないかな」
的な回答。


あのときの驚きはよくおぼえてて
本書を読めば
あの裁判長の判断の背景が
なにかわかるかなとおもった。

だがやっぱりよくわかんなかった。

べつに
加害者の精神鑑定なんかしなくてよかったのに
とかおもっているわけじゃない。
ただどうしてだったのかなときになっただけだ。


あの被害者女性はいまはどうしているのかな。


加害者はもう出所してるはずだ。
加害者のお母さんは80代あたりで、
本書によればその後
認知症を発症し
介護施設ですごしているという。
加害者は入所中に
母が施設にはいったときいて
「母にはそのほうが幸せかもしれない」
「出所したら以前行きたいといっていたところに車で連れていってあげたい」
などと話したそうだ。


自分自身と、母とのあいだのことについてはこのように
あたたかいものを感じさせる言葉をつかい
ちゃんと「思いやり」みたいな、
他人のわたしが聞いても
ふつうに理解できる
人間の「きもち」をみせている


でも被害者女性と
その両親 とのあいだにも
かけがえのない関係があったのに
それは加害者は考えなかった。
ふつうならあったはずの
よそのお宅の
平凡でも大切な「日常」を
自分がぜんぶ奪った
ということについては
実感をもって考えることができない


それが加害者Sの決定的な
問題だったようにおもう。