BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想をおもに記録しています。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-「検察側の罪人 KILLING FOR THE PROSECUTION(2018)」-180826。

※ねたばれというほどのことは書いていません。




検察側の罪人
英題:KILLING FOR THE PROSECUTION
原田眞人監督、2018年、日本

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https://movie.walkerplus.com/mv63110/


原作はこちらの小説

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167907846


観た。
想像していたよりずっと重厚。
また、観る者に、きわめてまじめな
問題提起をしてくる映画だった。



だが、観ていてときどき
「まあしょせんは『おはなし』、
『エンタメ』なんだよな」
みたいな気持ちになった。
おはなしもエンタメもなにも、
映画は 映画であることによって
すでにおはなしであり、エンタメだ。
それなのに
なぜこのように感じたかといえば
言葉そのままの意味ではなく
つまり
まじめな物語だけに
こっちもすごくまじめに観ちゃうのだが
そうすると説得力の不足とか
設定のよわさとかがどうしても
みえてしまって たまにちょっと「しらけた」、
そういうことだとおもう。

本作が単独オリジナル脚本なら
それは脚本のまずさということにつきるが
原作ものなので、
原作も一定のレベルでまずかった
ということなんだろう。
たとえどんなに
「原作よりおもしろくしてやる」という
りっぱな気概があり
アレンジも巧みだとしても
いいミックスは
いいマスターなしにはできない。


たまにそうして一瞬
「しらける」かんじはあった。
だが
じゃあ駄作かい、というと、
そうともわたしは感じなかった。


おもしろかったし、
何度もいうようだが
すごくまじめに
うったえかけてくる物語だった。

オープニングが工夫されていた。

また
らせん階段の描写は
ヒッチコック映画や
なぜかジェームズ・エルロイの
小説を連想させた。

ラストの別荘のシーンで
ひとりは階上にむかい
ひとりは階下にむかうというのが
これまたなぜなのか、
エッシャーをおもわせた。


期待したとおり、
木村拓哉二宮和也両氏の
ダブル主演は
すばらしくみごたえがあった。
このふたりの演技バトルだけで
2時間じゅうぶんたのしめた。


若手検事の啓一郎/二宮と、
かぎりなくクロにちかい参考人・松倉の 対決は
「二宮くんってこんなにやれる役者なの!?」
心底おどろいたくらい
すさまじかった。

二宮くんの演技には・・・
一朝一夕ではきかない
準備と練習、台本読みの
努力がうかがえた。
「伸びがいい」というか
まだあれよりももっと
何かやってくれ、と頼めばいくらでも
「あ、いいっすよ♪」といって
別のなにかを見せてくれそうな
怖いほどの潜在能力を みたようにおもった。
ニノ検事が ドーン!と
いきなり松倉を怒鳴りつけたとき
わたしは本気で驚いて
シートのうえで1センチくらい飛び上がった。
彼はそのあとたしか2分以上も
怒鳴ったり 犠牲者の写真を投げつけたり、
松倉の変なクセをマネしてみせたり、
しずかな声でねちねちと脅しつけたり、
手を変え品を変えして
松倉にプレッシャーをかけつづけた。
気圧された。観入った。
取り調べのシーンがおわったとき
乾ききっていた眼から 涙がつーっとでた。
あのセリフのよどみのなさといい
「『わたしがやりました、の一言をひきだすために、
あえて怒って、プレッシャーをかけることも
検事の仕事にはあるものです』
と飲み込んでいる検事」の演技をしている、
という意味での演技感といい
まとめると
「スゲエ」。


木村拓哉さんは
ニノ検事が研修生時代から心酔する
気鋭のベテラン検事を演じていた。

おのれの正義のために
彼は ある決定的なボーダーラインを
踏み越えようとする。
そのとき、
心は「やる」と決めていても
体が拒否反応をおこす、
この場面がじつによかった。
脆い人間の姿。

ああいうとき、
人はたしかにああなるだろう。

一線を越えてしまってからの
あの検事の眼は、
撮影時に、光の入れかたを
工夫したからなのだろうが
ツヤ消しの黒メノウのよう。
顔の筋肉のうごかしかたも
不自然におもえ、
頬骨のあたりが緊張して
ひくひくしていたし、
うまくとりつくろっているつもりでも
ロボットみたいになっていた。

正しいことをしてやったぞ、
俺はなにもわるくないんだ、なんて
彼は絶対におもっていないだろう。

厳密にいえば
正義を執行したかったのではなく
たいせつだったあの思い出を、
あのかわいらしい女の子を
汚された かなしみ、
なにもできなかった くやしさを
わすれることができず、
ああでもしなければ、
もう苦しくて生きていけなかった。
というだけのことだとおもう。
日和って、正義を出したりひっこめたりする卑怯者、
というのとはちがう。
彼の正義は、あの女の子の思い出に
関することにだけ 発動した。
たまらない心の痛みに、
彼が正義と名前をつけただけだ。

彼は検事の仕事に就いて長い。
この仕事をしていれば
「こいつ絶対にクロなのに、くやしい、
不起訴にするしかない」
なんてことは 何回もあった、
そういう背景が設定されていることはまちがいないだろう。

でも過去に 
彼の「正義」が発動した形跡は
すくなくとも映画をみていたぎりでは、
なかった。
もし別件で何度も 
今回みたいなことをやっていたら
もっと手慣れた調子だったはずだ。

あの子のために、と その一念で
検事になったとまでは
映画をみたかぎりでは 
思えなかった。
あの子の無念をはらせるかもしれない機会が
たまたまめぐってきて
根がまじめなだけに
おもいこむと抑制がきかず
地位があり能力もむだに高いので
暴走した、
というかんじにはみえた。

「俺がまちがっていた」とか
「だれか俺を止めてくれ」なんて
言えなかったのだとおもう。
そりゃそうだろう。

だれよりも自分が内心
いちばん思ってることを
かわいがってきた若手検事に
ずばり言われてしまったときの
つらそうな、なさけない表情は
リアルでよかった。



ニノ検事が
キムタク検事に心酔しているという
だいじなポイントの説明が
弱かったことは問題だった。

二宮くんは見るからに
「サトリ系」というのか
なにやってても つまんなそうな顔。
いっちゃわるいが
「この人についていく」とか考えるほど、
年上のだれかに心酔する若者とは、
対極、ほぼ無縁の人におもえる。
でもあの若手検事は、まさにそういう
若者として造型されていた。
先輩、先輩と子犬のように
キムタク検事に
くっついてまわるかんじが、
もっとあってもよかった。
やってたのかもしれないが
心のどこかでばかにしてる
それはなにも先輩検事だけでなく
基本的にだれのことも、だが・・・、
そういうのが感じられて
しかたなかった。

はじめて先輩検事に
牙をむくシーンが
すばらしかっただけに
もっとちゃんと
「尊敬してるんです、
おねがいだからずっと
尊敬させてください、
俺のかんちがいであってください」
的な葛藤の軌跡を
もっとみせてくれていれば、と
惜しまれてならなかった。

なにを考えてるんだか
さっぱりわからないかんじが
いまの若者、ってやつなのか
どうかわからないが。


だが 何度も言うけれども
基本的には
キムタク・ニノのふたりだけでなく
脇をふくめみんな
すばらしい仕事をしていた。


優秀な人、高い能力をもつ人は
社会に、国に求められる。
しぜんと
人々を牽引するような仕事のところに
あつまっていくものだとおもう。
三権のトライアングルの頂点とかに。
だからキムタク検事が検事になり
学生時代の仲間が
国会議員や弁護士になりして
それぞれにえらくなっても
まだ友人関係がつづき
たまに会っては超高級店で
食事をしてても
べつに
そんなうまい話があるかい、
とはならないだろう
そんなうまい話に
なることがふつうにあるのが
あるヒエラルキー
頂点にいる人たちなんだとおもう。
そこに自分がいないから
わからないだけだ。
優秀な人の一族は 
郎党そろって優秀である可能性がたかい
優秀であることによる
既得権益、地位、立場をまもるために
一族みんながささえあい
立場を保ち受け継いで
なにかあれば助け合ったりするように
なっている。
優秀な人の一族とは いってみれば
しがらみであり血であり呪いだ。
生きているうちは ほぼ絶対に
ぬけだせないレベルで
そこにどっぷりつかっている。
そうして彼らのうちのだれかは
崇高な理念の実現のために
ネオナチやらヤクザもんやら
人権派きどりだがおつむが気の毒な、
どこぞの業界の重鎮やらに
金をつかませ利用したり
やっぱりいらないとなれば
殺してみたり・・・
そんなこともあるんだろう。
べつにへンじゃない。
自分はそこまでのことをしなければ
身を守れないような世界にいないから
見えない、それだけのことだ。

だがそんな勝ち組?の友人で
現職国会議員の醜聞と
そんな彼らの共通の思い出である
あのかわいい女の子の
時効事件の再燃が
時間的に完全に
かさなることにかけては

そんなうまい話があるかい!

そこがまあ
しょせんおはなし、
エンタメなのではあるが。
サイドストーリーとして
学友たちのことを
ちりばめるのはかまわない。
でも、リンクさせるなら
せめてもうすこし
「あたかも関係があるかのように」
接着を頑丈にしてほしかった。
そうすればこちらも
だまされることができた。



ちょっとなんだかいろいろ
惜しい気はしたが
ひたむきであり、
ちゃんとした映画だった。
「藁の盾」ほどズサンではない。

もっとお金かけて話題になってても
結果ぜんぜんおもしろくなかった
同種の映画も ハリウッドなんかで
いくらでも観たことがある笑

本作は
木村拓哉さんや二宮和也さん、
その他すべての役者さんの
名演をたのしむだけでも、
じゅうぶんもつ。
とくにニノの迫真のキレ芸に
ふるえあがりたいかたには
おすすめできる作品だ。