BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『地獄門』-180513。

英題:Gate of Hell 
衣笠貞之助監督
1953年、日本

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平治の乱前後の
京を舞台にえがかれる物語。
原作は菊池寛だそうだ。

このポスター
コピー、意味がわからないけど
勢いがあっていい。
作品をまともに観ないで
書いたコピーであることが
ひしひしと伝わる(笑)。

平治の乱は、平安末期の政変だ。
源義朝らが、後白河上皇
・・をかつぐ平清盛一門・・
をたおして、平氏の台頭を阻もうとした。
平清盛が遠方にでかけた
スキをねらっておこされたが、
しらせをうけて帰京した
清盛勢にほどなくして鎮圧され、
けっきょく源氏による
政権奪取ははたされなかった。

戦火は御所にもおよび、
上皇とその妹・上西門院の身にも
危険がせまる。
上西門院を逃がすのに
身代わりがたてられることになり、
侍女の袈裟という女性が、
その役目を買ってでた。
袈裟の車の護衛をした武士・盛遠は、
美しい彼女にひとめぼれ。
論功行賞で、袈裟をめとりたいと願いでるも、
彼女はすでに人妻だった。
あきらめられない盛遠はしつこく彼女にいいより、
妻にならなければ夫の渡を殺す、と脅す。
悩みぬいたすえ、袈裟は
夫婦の邸にあえて盛遠をまねきいれ、
夫の身代わりに その刃をうけて果てる。
盛遠は、自分のきもちを押し付けて
恋する人を追い詰めた身勝手を悔い、
彼女の夫・渡に殺してくれと懇願。
だが渡は盛遠を手にかけることなく
なぜ相談してくれなかったのかと
袈裟のなきがらをかきだいて泣く。
渡に殺してもらえなかった盛遠は、
袈裟の菩提をとむらうため、出家する。

・・・

演技が、ふるくさい(笑)。
録音の関係なのか何をやってるのか聞き取りにくく
映像もガチャガチャしてときに状況が読めない。
セリフは重罪級に棒読み。

盛遠と兄の政治的対立の要素は
話がややこしくなるので、いらなかった。
それをけずって、もっとしっかりと
袈裟への妄執が
エスカレートするさまを描いてほしかった。
実際的に会える機会が少なくても、
いや、むしろ少ないからこそ
ムダに燃え上がる岡惚れの炎を
もっと描写してくれてよかった。

田舎ざむらいと さげすまれたという
北面武士を演じるには、
長谷川一夫は品が良すぎた。
あと滑舌が悪すぎて
何を言ってるのかわかりにくかった。

ただ、これら欠点という欠点の山を
掘り返した底に
残って光るものは
たしかにある映画だった。

カンヌでコクトー
絶賛されたというだけあり、
色彩はあざやか。
貴人の服の色柄もまじめに再現され
見入ってしまうものがあった。
音楽も個性的で美しい。

タイトル「地獄門」の意味を
かんがえていたんだけれど。
最初は盛遠の暴走する妄念を
指しているのかなとおもったのだが
それだけでもないことに気づいた。
というのも、
渡が、妻の死を知って、
盛遠にこんなことを言った。

・・・おまえはわたしに斬られて死ねば
楽になれるのだろう。
だが妻に頼ってもらえなかったあげく、
みすみす死なせたわたしは、
これから先どうすればいいのだ。

袈裟が渡に窮状を相談しなかったのは
渡を信用できないからとか
そういうつもりではなかったろう。
だんなさまに迷惑をかけてはいけない。
よその男に言い寄られるなんて、
自分が至らないからだ。
そんなはしたない女が妻というので
だんなさまの評判が落ちたら
・・・などと考え、
自力で何とかしようと思いつめた、
そういうことのはずだ。
だが、渡も言っていたことだが、
夫としては相談してほしかった。
頼ってほしかった。
世間に何を言われようとも
彼だけは袈裟の味方をしたのに。
妻を守って、盛遠と決闘できれば
それこそ渡の本望だったはずだ。
なのに何ひとつ
打ち明けてもらえなかったばかりか
最愛の妻の命とひきかえに
自分が生き残る始末。

盛遠は袈裟の死をきっかけに出家する。
罪をそそいで煩悩からさめることも
できるかもしれない。
犠牲になった袈裟も、
愛する夫を守れたのだと
納得して死んでいったのだろう。
だが渡は、
妻に信頼してもらえるだけの
夫になれなかった、
そんな心の傷をかかえて
生きていかなくてはならない。
盛遠のように出家して、
妻の菩提をとむらうにしても、
妻に頼られなかった俺、という
すさんだ心でする供養より
心からの改悛にもとづく
盛遠のそれのほうが、
よっぽど仏の御心にかない、
袈裟の霊をなぐさめるだろう。
まじめな渡は
そこまで考えるのではないか。

作中に登場する山門「地獄門」は
義朝勢の首がさらされた場所であり、
乱ののち、盛遠が袈裟と再会した
宿命の場所であった。
渡の殺害を企図した盛遠が、
袈裟の邸にむかう途中、
琵琶法師に時刻をたずねたのも、
この地獄門の下だ。

しかし出家した盛遠は、
この門の前を早足でとおりすぎる。

地獄のほうがまだましと思えるような
つきせぬ悔恨と苦悩をかかえて
生きていかなくてはならなくなった。
地獄への門をくぐったのは、
盛遠ではなく、渡。