BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『アレキサンダー』-180415。

原題:Alexander 
オリヴァー・ストーン監督
2004年、米

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迫力の歴史活劇だとおもって観始めたけど、
冒頭30秒で「そういうのじゃない」と察知した。
アレキサンダー大王の伝説に関心はない。
熱烈に期待して選んだ作品でもない。
だから期待はずれ!と腹がたつこともなかった。
納得ずくで心をほうりなげ、観つづけた。

結果、かなり胸にせまる秀作という印象。

本作のアレキサンダーコリン・ファレル)は、
家庭オンチの夢想家だった。
健全な家庭環境を与えられなかったため
心のよりどころ、帰る場所を持てない。
おなじ家庭オンチでも人間が凡庸なら
伝説が生まれることもなかったろうが、
アレキサンダーは優秀な王で軍略家。
結果、世界のはてまで「探しにいく」旅を企図、しかもこれが実現した。
帰る場所を探す旅、それがアレキサンダー大王の東方遠征。
本作は、そういう切り口と理解した。

本作のアレキサンダーには
「おれには心のよりどころがない。
そいつを求めずにはいられない。
だからこんなに苦しいんだ」
という認識が、たぶんなかった。
なかば狂える母への愛憎にもだえ、
父王への信頼と疑心のはざまで
苦悩する姿は描写されていたが、
本人が自分の言葉で心を語らないから、
判然としない。
でも、彼の言動には、
その心にあいた巨大な穴が
いちいちすなおに、すけてみえた。
とりつくろわないのは、自覚がないからだ。

たとえば、
ガウガメラの戦いで
ペルシャのダレイオス王をやぶる。
敵の敗走を見逃したアレキサンダー
「地のはてまで逃げるがいい。
だが、おれからは逃げられない!」。
このあと、ペルシャ中枢をすっかり占領したので、
仮にダレイオスが戻ってきても、
もう怖くもなんともなくなった。
ここはいちど国に帰って、兵を休ませるべきだ。
それなのにアレキサンダーは進軍を続け、
2年以上もの年月を、ダレイオス討伐についやす。
軍略上 ちっとも重要じゃない相手に
これほどこだわりつづけた
アレキサンダーの心の秘密は、
「おれからは逃げられない」、これにつきる。
かかわってくれる相手、
自分の心を動かしてくれる相手は、
敵だろうがはなしたくない。
愛と憎しみと執着の区別がついてない。
叫びはアレキサンダー自身にはねかえる。
「地のはてまで行っても、
おれの心にあいた穴からは逃げられない」。

もう何年も遠征で疲れた、
国に帰りたい、家族に会いたい。
そんな不満が兵たちから噴出。
彼らの思いを知ったアレキサンダー
「おれがまちがっていた。老兵から優先的に帰郷を」
と、ものわかりのいいことを
言いだしたかとおもいきや
とつぜん目の色かえて大興奮。
「やぶった国の略奪をゆるしてやったし、
女だって犯すなとは言ってないぞ。
おまえたちだって、
なんだかんだいってもいい思いをしただろ。
罪で汚れた手のまま、
国に堂々と帰れるつもりでいるのか。
おまえたちは一生おれの道連れだ!」。
雑兵の群れを相手にわめくアレキサンダーの姿は
おびえた子犬にも似て、正視にたえない。

帰りたい。家族に会いたい。
アレキサンダーには
ぴんとこないばかりか、
何かムカつく訴えであったろう。
そもそも彼はなにがかなしくて、
疲れるし人が死ぬし金もかかる遠征なんか、続けるのか。
みんな持ってる心の家が、
帰る場所が、自分もほしいからだ。
彼は、それを夢に見ることさえできない。
具体的なイメージを持てたためしがないのだから。
それをいともかんたんに、
家だ帰るだと口にする兵たちをみて
無性にイライラしたにちがいない。
場面の雰囲気にそぐわない、優しい長調の旋律が、
殺気立つ兵士の人波に 
もみくちゃにされながら叫びまくる
アレキサンダーを、つつんでいた。

それでも、親友の
フェファイスティオン(ジャレッド・レト)の存在は
アレキサンダーにとって
まだよかったと思った点だったが
フェファイスティオンは急逝。
アレキサンダーの慟哭は みていてつらかった。

本作は、あんまり高く評価されていない。
それは、
それはテンポが遅く冗長だからであり、
バトルシーンが長ったらしいからであり、
コリン・ファレルに貫禄がないからなんだろう。
でも、ストーン監督は、
そんなことはすべてわかって、
あえてハズした、くらいに考えたい。
潮時を知りながらわざと数秒ひっぱる、
才能はあるが若すぎる役者さんをもってくる、
そんなふうにちょっとノイズをいれることで
「シンプルな大作歴史ロマンをお求めでしょうけど、
すいませんねえ、そういうのじゃないかもよ(^^)!!」
と言ってきているのかも。
歴史の教科書では 
ギリシャの圧勝と語り継がれている
ガウガメラの戦いにもかかわらず
血まみれ死にかけのギリシャ兵が
山と描かれる点や
凄惨なだけで見せ場のないバトルが、何分も続く点には、
ま、戦争なんてこんなもんだよ、
勝とうが負けようが ただじゃすまないのさ
そんな監督の考えかたが
(監督はたしかベトナム帰還兵だったはずだ)
よくでている、とはいえないかな。

本作で味わえるのは
スリルやロマンじゃけっしてない。
アレキサンダーという古代の傑物の、
孤独な心模様だとおもう。