BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-「スクランブル(2017)」-171018。

原題:Overdrive
アントニオ・ネグレ監督
2017年、仏・米

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movie.walkerplus.com

※ねたばれ的なことは書かないが
内容には触れる。すきほうだい 言う。

物語の主人公は、
高級クラシックカー専門の
強盗をなりわいとする
フォスター兄弟。
ろくでもないことをやっているが
兄のアンドリューは 
クラシックカーの知識が
とにかくすさまじく豊富、
どんな車もみただけで
製造年から開発裏話から
うんちくがぺらぺらでてくる。
弟ギャレットはお調子者だが、
誰とでもそつなくうまくやれる
コミュニケーションマスター。
おもに渉外・調整を担当する。
さて、ふたりは、
いつものように仕事をするが、
このたび盗んだ車が、よりにもよって 
南仏一帯を牛耳るマフィアの頭領が 
オークションで競り落としたものだった。
頭領は、不遇の時代を
実力ひとつでのしあがった苦労人。
自分が稼いだお金で手に入れる
高級クラシックカーのコレクションが
彼にとっては宝物だ。
車は彼の誇りそのもの、
自分の命よりも大切。
だから そのコレクションに
加わるはずだったすてきな車を 
不届きにも横取りしようとした
若造どもが絶対に許せなくて、
とっつかまえて殺そうとする。
頭領の剣幕にあわてたフォスター兄弟は、
あんたのために、
もっといい車を手に入れるから許してよ
と とっさに持ちかける。
彼らが提案したのは、
頭領と敵対関係にあるマフィアが
所有するクラシックカー
(なにせ高級車専門の強盗だから
どこの国のなんという街のだれが
どんなめぼしい車持ってる、
という情報はすべて
頭にはいっているわけだ)
頭領はこの敵対マフィアのことが 
過去にいろいろあった関係で
だいっきらい。
兄弟の計画が成功すれば
そのまま意趣返しになるし
車は車でのどから手がでるほどほしい。
そこで、
フォスター兄弟の提案にのることにする。
ただし期限は1週間、
失敗したら兄弟は殺される。
兄弟は、
ハッキングのエキスパートやスリの天才、
爆弾オタクなどの
一芸にひいでた仲間たちを集めて、
このミッションに挑んでいく。
・・・

感想を端的にいうと
けっこうおもしろかった!!
100点満点なら75点てところ。

わたしは車のことは
まったく 知らないが、
好きな人なら 
迫力のカーアクションと
名だたるクラシックカー
続々登場する壮観に
夢中になれることだろう。
このわたしでも、
車って美しいな、と 感じた。
ワイルドスピード」のときは、
意外にこういうことは感じないのだが。
本作では、
「車は、場面によって
こんなにさまざまな表情を
見せてくれるものなんだ」
と 感じることができ、
とてもたのしめた。

オープニングもいい。
高級車の車体が 
音楽にのせて 
さまざまな角度から映し出される映像。
デヴィッド・フィンチャー監督版の
ドラゴンタトゥーの女」の
オープニングに次ぐくらい
見入ってしまう かっこよさ。

「女」といえば、
車には女性の名前が
付けられることがおおいね。
セリカ」とか「カローラ
「シルヴィア」「シエナ」。
テスタロッサ」も女性っぽい。
「ガイア」は大地の女神さまの名前だし。
メルセデス」も
スペインとかの女性の名前ではなかったか。
過去にほかの映画で、
女性の自動車泥棒が
自分が盗もうとする車を見つめて
「あなたってとっても美人ね。
ちょっとだけおとなしくしててね」と
女性にするように語りかけていたのさえ 
見たことがある。
車の美しさは、女性の美しさに通じる
かんじのものなんだろうか。

想像していたのとは
ぜんぜん違う映画が観られた。
テイストとしては
ワイルドスピード」風かとおもいきや
案外そうでもなく、
どちらかというと
「グランドイリュージョン」系統。
対象年齢もあきらかに
ティーンから20代後半あたりを
メインにあてこんでいる。
しかし、
軽く 明るく、 
アクション! バトル! 
ロマンス! ミュージック!
という方向でつっぱしるのかなーと 
おもわせておいて、
意外にも もっと骨太、
けっこう見ごたえあるかんじに
転がっていくのだ。
それが観ていて
ほんとうに意外で 驚かされたし、
その意味ではかなりの
ジェットコースター展開だった。

ただ、こだわるようだけれど、
そこにやっぱり
アンビヴァレンスというか
なにかこう・・・ 
がんばってたけどちょっと 
ムリがあったかな?
「そっち方向」に途中から 
ハンドルをおもいっきり切るにしては、
役者さんたちが あまりに若すぎたし
そこまでで構築されてきた世界観が 
軽すぎたのだ。

なんといっても
スコット・イーストウッド
かわいらしいお顔で
ああいうことをやられると、
わたし本気で引いちゃう(^^)。
恋人を傷つけたやつのことが 
どうしても許せなかった 
ということだとはおもうが
(それ以外に動機が考えられない。)
でも そうはいっても 
命までとられたわけじゃなし、
仕返しにしてはやりすぎ
と わたしは感じたのだ。
あそこまでやっちゃったら 
もはや大団円はありえない。
「そこまでは やらない世界観」であると
ずっとわたしに伝えてきていたのだから、
ほかならぬこの映画が。
もしどうしても
「そこまでやって、でも大団円」
に ムリクリもっていくならばせめて
「そういう価値観じゃないかもよ〜?」って
もう少し前から、
観る者の頭にすりこむくらいの
手間は必要だろう。
もしわたしが監督なら
音楽の調性で工夫するとか・・
そうだな 
あとは役者さんの服の色なんかで
それとなく。
瞳の色とかだけでも
かなり効果はあるのかなと
おもうけど どうだろう。

そういうとこ 
抜け目なく
いい具合にやっとかないと
せっかくの大仕掛けにもかかわらず
「構成の不備」感を
観る者に残してしまって 
もったいないのでは。

そもそも、恋人を傷つけられたことが
アンドリューのあの行為の
理由なのだとすれば、
アンドリューの計画が
そのできごとよりも
はるかに前から動いていたことが 
ほのめかされたのも、
考えてみれば おかしい。


※「考えてみればおかしい」といえば
話の発端である 
「仕事で盗んだ車がマフィアのお手つき物」
も おかしいっちゃおかしい。
フォスター兄弟は 先述のとおり、
世界のめぼしいクラシックカー
所有者情報を
すっかり頭に入れているはず。
それにもかかわらず
オークションから盗み出したあの車の
アンタッチャブル情報だけ
事前に把握できなかったのはなぜか。
(把握できてたら映画 存在してないけど)
でも これはいちおう
納得できなくはないことに 
あとで気づいた。
いつも一緒に仕事をしているハッカー
(アンドリューの恋人)が
この仕事にかぎっては 
危険だからと外されていた。
それで情報収集に穴ができた。
オークションの落札者の情報を
ハックできなかった、
ということ。
まあそれならしょうがない。
盗みもラクじゃないなあ。


話をもどし、

そんなわけで、
コペルニクス的大転回を狙うにしても
もう少したくみなやりかたは 
探せば なくはなかったと
わたしは考える。
そこがなー やっぱ 
フランスさんがからむとなー。
なんかヘンにテキトーに
なるっていうか・・・←偏見。


サイコ野郎の敵対マフィア、
個人的にはあのままの
キャラでいってほしかった。
すごくよかったんだけどな。
サイコ野郎として 途中までは
きわめて良質だった。
顔もいかにもヤバイなこいつ、
ってかんじだったし。
瞳の色が薄くて
人間離れして見えるのもあって。
だから 話し合いが通用する
相手であってほしくなかった。
持論なんだが
やっぱり悪役は 
徹底的に人間のクズでないと、ダメ。
フォスター兄弟の雇い主となる
マフィアの頭領を演じた
シモン・アブカリアン
(007カジノロワイヤルのディミトリオス)
もったいなかった。人間らしすぎた。

頭領が、フォスター兄弟のもとに
監視役として送り込んだ男は 
アブラハム・ベルガという
役者さんがやっていたようだが
この人は 小者っぽくてすごくよかった。
イエス・キリストの生涯を描く映画とかで
ユダをやったらハマりそうな顔。
いかにも たいしたやつじゃなさそう感。
こずるくて陰険で。
・・・
ユダに悪いこといっちゃったかな(^^)


でも、話をもどしますが、
この「大転換」こそが 
本作のいちばんのみどころであるし、
ここまでさんざんっぱら言ったけど、
それでも超絶 大健闘している。
なかなか作れないよこういう話は。
途中で すべてがひっくりかえるの。
ぞっとした、
あの外門の彫刻文字をみたとき。
え!どこからだったの!? 
もう一度観なくちゃ、と。

それになにより やはり 
明るくカラッとした雰囲気で
元気いっぱいってかんじが 
すてきな映画だ。
役者さんたちも 
やる気十分でよかったです。


スコット・イーストウッド
よくしらなかったわたしは、
そもそもが
父親たちの星条旗」のときから
「うわ、この人、
クリント・イーストウッドにそっくり」
って バカなことを思ってた。
あとで調べたら 
クリント・イーストウッドの息子さん。
見れば見るほどそっくり。
往年のお父さんに。
これで血のつながりがなかったら
世の中ぜんぶうそだ。

本作の主人公、アンドリューとギャレットは、
母親が違う兄弟であり、
アメリカと英国とで 
生まれてから15年間会うことなく
はなれて暮らしてきた という設定。
イーストウッドも、
スコットのお母さんにあたるかたとは
結婚しなかったそうで、
スコットには母の違うお姉さんお兄さんが
3人いるという。
フォスター兄弟のこの設定は、
イーストウッド父子、
イーストウッドをめぐるファミリーの
実際の関係になぞらえて 
作られたんだろう。
登場しないのに 
「イイおやじだった」と 
たびたび語られる
フォスター兄弟の父親が 
どんな人だったか見たい、と
わたしがおもったということは
たぶんほかの人たちもそうおもったはず。

本作は 続編がありえる かも。
お父さんもう死んでる設定だったから
出てこないかもしれないけど。
シリーズ3くらいになったら
パパ登場もありえますかね
ハンニバル・ライジング的な
エピソード1的な(^^)
・・ま、そこまでの作品ではないか。


それに
アメリカ育ちのアンドリューには 
ラテンアメリカンの恋人がいて
英国育ちのギャレットは 
フランス美女といいかんじになり
兄弟の仕事仲間にも 
ブラジルやらメキシコやら東欧やら 
聞きなれない言葉を話すメンバーが
多数参加する・・など
国際色ゆたかな 映画。
そういうのも 考えてみれば 
おもしろかった点だった。
アンドリューの恋人役の
女優さんは
キューバの人だそうだが
意志の強そうな濃いまゆや 
笑った顔がすてきで
わたしも大好きになった。


つっこみを入れたくなる部分も
すくなくないものの、
楽しめる映画。
まじめに ちゃんと
おもしろいもの作ろうとしているのが
つたわってきて好感がもてた。
露骨な描写、下品なシーンが 
排されてセンスがよく
バトルアクションのわりに 
流血シーンがほとんどないため
むごいシーンがダメな人も安心して観られる。
ぜひ どなたも楽しんで 
ごらんになっていただきたい。

わたしもあと1回くらいは観てもいいかも。