BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

最近読んだ本の感想をちょっとだけずつ(20170801)。

この2週間くらいは 仕事で使う本の読み込みが中心で
趣味ではそんなにたくさん読まなかったが
何冊かには目をとおした。

小林紀晴「ASIAN JAPANESE」新潮文庫

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goo.gl


・・・ずいぶん前に買って、それきりに。
自分があんまり旅行などができないもので、
せめて人の旅行記 紀行文を読んで 
旅をしたような気になりたい、と
おもっていたときがあって、
そんな 旅行記マイブームのときに 買った一冊と記憶。
本作は著者が20代のころ、カメラをかかえて
ふと アジア方面に旅にでたころの フォトエッセイ。
行くさきざきで出会った日本人の旅行者たちに
インタビューをし、写真を撮らせてもらったもの。
文にはそれほど 心をひかれなかった。
自分の心のステージが本書と合ってなかったのかも。
けど、これは勝手な想像だが、
著者自身も いまこの本を読み返したら、
「おれ、なにいってんだろう。われながら意味がわからん。」
と、思うんじゃないだろうか(^^) 
人ってそんなもん。
けれども、
写真がどれも印象的で、気づけばじーっと何分も
見つめるということをくりかえしてしまった。
また写真をながめるために 読み返すんじゃないかとおもう。





文藝春秋
「泥水のみのみ浮き沈み 勝新太郎 対談集」
文春文庫

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books.bunshun.jp


・・・昔の「文藝春秋」
勝新太郎が各界の著名人と対談するという連載があったそうで
その対談がほぼすべて 本書におさめられている。
森繁久彌三國連太郎瀬戸内寂聴ビートたけし
石原慎太郎津本陽、奥さんの中村玉緒など。
勝新太郎という人は、めちゃくちゃだけれども
筋がとおっている。
人としてとか仁義がどうとかの、その「筋」ではなく、
勝新太郎という筋がとおっている」。
いまや芸能界の重鎮のビートたけし
勝新太郎にまともに相手してもらえてないかんじとか
すごく 読んでておもしろかった。
三國連太郎のところもよかった。
恋人だった太地喜和子の話とか。





よしもとばななさきちゃんたちの夜」(新潮文庫

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www.shinchosha.co.jp

・・・同じ「さき」という名前の5人の女性たち
それぞれに訪れるちいさな奇跡、喜びを
描く短編集。
観念的すぎるようなかんじはしたが
5編のうち いくつかは好きだった。
よしもとばななさんは あれですな。
手を変え品を変え ずっと おなじことを言い続けてますな。
「デッドエンドの思い出」あたりが
ここ数年だといちばん 個人的にはすきだな。




石井光太「蛍の森」新潮文庫

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www.shinchosha.co.jp


・・・著者の初めての小説だとおもう。
著者はノンフィクションライターだから。
サスペンス・ミステリーだった。
主人公(狂言回し)を担当するのは
関東にくらす30代くらいの男性で、医師だ。
とおい四国の山村で、おじいちゃんがふたり失踪。
主人公の実父が、この事件の重要参考人となってしまった。
じつは父は以前にも この行方不明のおじいちゃんに
暴力をふるったかどで逮捕され、刑務所にはいったことがある。
それなもんだから 重要参考人と目されたわけだ。
父が刑務所なんかに はいるようなことをしたせいで
主人公は これまでずっとつらい日々をおくってきた。
妻との関係は悪化し、職場でも肩身のせまい

思いをさせられるなど 生活がおおいに乱されたのだ。
それでも肉親だからと 釈放後の生活の面倒をみたり
主人公はそれなりに 父に歩み寄ろうとつとめてきた。
やっとなんとか 生活が落ち着いてきたところだったのに
ここにきて またか! という気持ち。
男性は父が聴取を受けている四国に旅立ち、
事件の真相を父本人に問いただそうとする。
しかし、
そこで彼がたどり着いたのは 
この小さな村がひたかくしに隠す ある陰惨な過去の事件だった。
・・・
ハンセン病差別の歴史と その暗い実情を
わしづかみにして見せてくる。
もし娯楽としての小説 という見かたをするなら、
てんで読めたもんじゃなかったし まずい部分もあった。
でもグイグイ最後まで読まされたのは
やはり 娯楽じゃないから。
書きたいことのためにどうしても
小説の体裁をとらなければならなかった、
本当は 渾身のルポルタージュ
だからこそ、おしまいまで読まずにはいられない。
ラストは ちょっとドラマチックにしすぎだったし、
そんなに何もかもにきちんと 結末を与えてくれなくても
いいよ、とも感じた。
しかし、不当な 苦しみの人生を強いられてきた人に
やさしい救いがもたらされる よいラストであり、
海老沢泰久の「青い空 幕末キリシタン類族伝」(文春文庫)や
島崎藤村の「破戒」の ラストをちょっと おもわせる
すがすがしさがあって、好きだった。
海老沢泰久の「青い空」よかったんだよなー
いったいなんだったんだ あれは。
わたしは海老沢泰久という作家さんには
はずかしいけど 当時まったくのノーマークだったから
突然変異的にあらわれたかんじをうける 超絶佳作だった。
ほんとにすばらしかった。タイトルはダサいけど。
また読みかえしたくなってきたな〜。




あとは、
モーリヤック、プラトン、ワイルド、
コルタサルニーチェサマセット・モーム
ジャン・ジャック・ルソー坂口安吾酒見賢一
恒川光太郎澁澤龍彦小林秀雄とかで
みじかいのを文庫で 1冊ずつくらい読んでた。
プラトンとかモーリヤックとか 読んだところで
いったいなにになるのかと いわれると
たぶんなににもならない、としか答えられない。

・・・わたし、コルタサルなんて作家を
いったいどこで知ったんだっけな。

あと
15年くらいまえの世田谷一家強盗殺害事件の
ルポを10冊くらい
図書館でかりて読んでた。
議論百出。みんなそれぞれに 
まったくちがうことを言っていて
どれも もっともらしいのだから おどろき。
独自の結論にたどり着いているどころか
犯人をほぼ名指ししている作品もいくつかあったけど
それらによると あの事件は
すでに犯人はわかっているというか
情報をていねいにたぐりよせ 正しく結びつけて考えれば
かならず犯人像をみちびきだすことができる
(じっさいにこれらのルポの著者はそうすることで
彼らなりの結論を出し「犯人」を指名してみせている。
まったくなにひとつわからない お手上げの事件
というわけではないらしい)
のだが、
警察のくだらぬ縄張り意識や旧態依然としたシステムが
情報の各署共有、活用への道を阻んでいる
だから
逮捕にむすびつかない、的なことを指摘していた。
そんなことで!と おもうけど
そんなもんなのかも。
だが亡くなった人たちはうかばれないし
のこされた人たちも本当に気の毒だ。