BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

最近読んだ本の感想をちょっとだけずつ。

このところ 読んでた本の感想。
読んだもの全部は思い出せないから 
思い出せるだけ。
マンガもいろいろ読んでるけど
そっちはまた別枠で。




チャールズ・ブコウスキー柴田元幸 訳
パルプ
ちくま文庫

www.chikumashobo.co.jp

→これ以下はないってくらい だらしがなく甲斐性もなく
下の下の下な私立探偵・ニックのもとに
いくつかの奇妙な依頼がいっぺんに舞い込む。
とっくに死んでいるはずの著名な作家を探してほしい。
宇宙人にとりつかれてる。
妻が浮気をしてるみたいだ(これは探偵への依頼としては一般的か。)。
「赤いスズメ」を探してほしい。・・・
ブコウスキーでいちばんすきなのは、というと
「くそったれ! 少年時代」だけど 
柴田元幸さんの訳書という枠でいうと
オースターよりもミルハウザーよりも何よりも
このブコウスキー、この「パルプ」がすきだ。
柴田元幸さんの訳でなければパルプ読みたくない。
ほんとうにたまにだけど 狂ったように読み直したくなる。
ブコウスキーの才能を見出した編集者は 優秀だ。
才能だ、と信じたところが まずすごい。

ただ これからパルプ読もうとおもう人は
あんまり わかりやすい「感動」みたいなものを
もとめて読まないほうがいい。
「小説とはこういうもの」
っていうのを頭に持った状態で
読むと 不当にガッカリすることになる(^^)
そういうやつじゃないから(^^)





中村智志
「命のまもりびと 秋田の自殺を半減させた男」
新潮文庫

www.shinchosha.co.jp


秋田県で、中高年の事業主などを対象とする
自殺防止相談窓口のNPO法人をたちあげた 佐藤久男という
人物についての 密着ルポルタージュ
秋田県は自殺率がかなり高いらしいのだが、
佐藤氏はそれを数年で半減させた功績に
大きく貢献した人なのだそうだ。
佐藤氏自身も会社経営者として かつてものすごく
苦労された経験があり、その頃のことを振り返る章が
とにかく圧倒的。
あと、日本の自殺問題の基礎情報にかんしても
くわしく解説されていて かなり勉強になった。
日本では 自殺率のカウントの指標が
ひとつではなく、ふたつあって、
そのうちひとつは自殺者が多く見積もられ、
もうひとつは少なくカウントされることになる、ということを
わたしこの本読むまで
知らなかったし。




西村雄一
「殉愛 原節子小津安二郎
講談社文庫)

bookclub.kodansha.co.jp

→映画監督の小津安二郎と女優・原節子との絆について
関係者への取材とゆかりの地歴訪を重ねて まとめた評伝。
うーん おもしろかったけど
かんじんの小津監督と原節子
話を聞けてないってところが 残念というか、
それいっちゃあおしまいなんだけれど、
でも やっぱり・・・。
監督は亡くなったのがずいぶん前だから
そのとき著者がこの本を書きたいとおもってなかったとしたら
インタビューできてなくても しかたないと思うけど
原節子はつい数年前まで存命だったんだからなあ。
じっさい著者自身も この本を書いているあいだに
原節子の訃報にせっした、と あとがきで明かしていたし。
なぜ生前 話を聞こうとしなかったのかと。
本人に話を聞かなかったところ、
グイグイいかなかったところが
つまり著者らしさといえばらしさなのかもしれない。
でも・・・ こういう本を書くんだったら・・・、
きっとアタックかけても 原節子は結果的には
なにも話してはくれなかったろうけど(門前払いされたろうけど)、
ぶつかってみるだけのことはするべきだったのでは。
結果ムリでもそれだけやった、ということだけでもあれば
まだ こっちとしても 読んだあとの気持ちが 違った気がする。
「小津と原節子の恋愛関係」に
かんしては 著者が「そう思いたいだけ」ってのが
出ちゃってて なんというか どうしようもなく。
なんとでも解釈できるから、前提に沿って資料を読めば。
いや、もちろん それなりの状況的根拠があるのは
よく理解できた。
公然の秘密的な部分があったことは
わたしだって いちおう知ってるし。
でも、なんといっても本人に話聞いてないっていうのがな・・。
ただ、映画ファン必読の一冊ではあった。
おもしろかった。当時の日本映画の現場のことを
くわしくいろいろ 知ることができて。
ちょっと、話があっちこっちと動きすぎて
ややこしい構成だったけど(^^)





瀧波ユカリ/犬山紙子
「マウンティング女子の世界 女は笑顔で殴りあう」
ちくま文庫

www.chikumashobo.co.jp


→なんつう本出しちゃってんの(^^)!!
笑ったけど(^^)!!





・押川剛
「『子供を殺してください』という親たち」
新潮文庫

www.shinchosha.co.jp

→心の病で苦しんでいるとおもわれるが病院にいかず
家でひきこもるなどしている人を
説得して医療にアクセスさせる・・・という
精神障害者移送サービス」を行っている著者が
これまでに経験した事例を紹介し
各種の問題とその対策案を提示する。
精神保健福祉法が改正されたことで
当事者たちがますます苦しい状況におかれるようになってきた
ということが じつに克明に解説されている。 
震えあがらされる 内容だった。
他人事ではないと。
精神的にも状況的にも苦しんでいる患者とその家族を
もし本当にぜったいに救いたいとおもうなら
当事者家族などのだれかひとりが 自分の人生のすべてを
投げ打つくらいの覚悟で臨まなくてはならない、
と すこしも大げさでなく 伝えようとしていた。
あと、「自分の家族が心を病んでいる、病院に行かせたい」
ってことを第三者機関に相談したいとして、
家族で解決できないから他人にたよるわけなので、
どれほど困っているか、なにをしてほしいのか、
いかに本気かということを 具体的に、何度も、熱意をこめて
相談しなくっちゃ、第三者には伝わらないし、動いてもらえない。
ということを くりかえし言っていて、なるほどなと。
いや この本は 読んだほうがいいですよ。




中島義道
「東大助手物語」
新潮文庫

www.shinchosha.co.jp


→哲学者の中島義道氏が
東京大学の助手をしていた30代の頃の 過酷な体験を振り返る
エッセイのような極私小説のような。
「やってくれたなあ・・・」ってかんじの1冊。
ぜったいこの人 
こういうの書くと 最強におもしろいんですよ。
中島義道氏のファン?だったら みんなそういうこと
思ってるとおもう。
すごくよかった。
いたましくて、いじらしくもあり、
読んですごく胸がしめつけられたけど。
わたし自身のつらかった体験の記憶が
呼び覚まされるような感覚もあったからなあ。





多島斗志之
「少年たちのおだやかな日々」
双葉文庫

株式会社双葉社 |少年たちのおだやかな日々


→中学~高校生くらいの少年を主人公とする短編小説集。
わたしは多島斗志之さんのこの 繊細さと偏執性とが 
ギリギリあり?なし?なラインでうろうろしてる
奇跡のバランスが すき。

「それではっきりするんなら、いつまでかかったっていいです」(^^)。





・鬼塚忠
「花戦さ」
(角川文庫)

www.kadokawa.co.jp


→映画を観たので、直後に買って読んだ。
これは・・・ ダメだな(^^)。
読んだことは失敗だった。
自分が書いたわけじゃ もちろんなく
作家さんが苦労して書いて こうして世に出したものに
はなはだ失礼なことをいうようだけれど、
(いうようだけれど、っていうか、めっちゃいうけど(^^))
そもそも小説として
個人的に お寒く、うすっぺらく、
おもしろくなかったうえに
なんかこの作品にかんしては
小説と映画とで、ダメなところを見つけ合い
掘り下げ合っているような
おたがいの関係的に
不利益しか生んでないかんじをうけた。
秀吉の改心の理由が信長、っていうのは
映画にはその視点があまりなかったんだけど、
小説ではかなりそこが意識されていて、
まあなんか、なんとなく、よかったような気はしたが。
絶対的に、
小説は読まないでおいたほうが幸せだった。
映画だけで終わらせておいたほうが、よかった(^^)
小説を先に読んだなら、
映画は観ないほうがもしかしたら幸せかもわからん。
・・・
いや、
やっぱり小説はいいから映画を観たほうが 幸せかな(^^)?
映画はあれはあれで ちゃんと観られる「形」になっていたから。
人物造形とかが。
役者さんたちの演技にすごく助けられていた。
映画ってのは役者だけじゃないとはおもうけど。
説得力があったとおもうんですわ
利休と専好のキャラは あれで最適解だったと。





小林泰三
「因業探偵 新藤礼都の事件簿」
(光文社文庫)

www.kobunsha.com


→頭はキレるが 性格が最悪なヒロインが
抜群の推理力を活かそうと考えて私立探偵業を始めたんだけど
最初の宣伝でかなりムダに金をつかってしまい
当面の必要から いろいろと別の実入りのよいバイトをすることに決める。 
そんなバイト生活のなかで
いろいろな難事件を解決していく・・・という
連作短編集。
おもしろい。
気分転換になった。
多島斗志之と同じ方面の雰囲気を 
ちょっと感じる作家さんだ。