BRILLIANT CORNERS-2

観た映画・読んだ本など関心ごとへの感想メインの、なんということのなさすぎる身辺雑記帳です。 少しずつ、いろいろ更新してまいります。 お気が向いたらお読みいただければさいわいです(^O^) ブログのタイトルは、セロニアス・モンクのアルバムから。「すみずみまで光り輝く」というような意味だそうで、なんとなくいいなとおもうもんで。

読書感想-阿部謹也「ハーメルンの笛吹き男-伝説とその世界」

阿部謹也ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界」(ちくま文庫)

f:id:york8188:20170522005525j:plain



www.chikumashobo.co.jp



おもしろかった。
グリム童話などでしられている
ハーメルンの笛吹き男の物語は、
西暦1200年代後半ごろにじっさいに起こった事件がもとになっているのだが、

本書は、いかにしてその事件が「ハーメルンの笛吹き男」の物語に
なっていったのか、また、どうしてこれほど長きにわたって
人びとに語り継がれる必要があったのかについて論じていた。

同種の研究は じつは欧米で500年くらいまえから
いろんな学者さんがしてきたそうで、
著者は既存の研究をかなりていねいに紹介しつつ
するどく矛盾点を突き、
自分にしかできない切り口から結論をだしていた。

とくに、こういう考えかたは昔の学者さんはまだ
できなかったのかもしれず、
著者だからできたのかもしれない。
「伝説とは本来庶民にとって自分たちの歴史そのものであり、
その限りで事実から出発する。
その点でメルヘンとは質を異にしており、
『伝説は本来農民の歴史叙述である』(ゲオルク・グラーバー)
といわれるゆえんである。そのはじめ単なる歴史的事実にすぎなかった
出来事はいつか伝説に転化してゆく。そして伝説に転化した時、
はじめの事実はそれを伝説として伝える庶民の思考世界の枠のなかに
しっかりととらえられ、位置づけられてゆく。
この過程で初発の伝説はひとつの型(パターン)のなかに鋳込まれてゆく。
その過程こそが問題なのであって、こうして変貌に変貌を重ねてゆく
伝説の、その時その時の型をそれぞれの時代における庶民の
思考世界の次元をくぐり抜けて辿ってゆき、最初の事実に遭遇したとき、
その伝説は解明されたことになるかもしれない。
しかしそれはなかなか難しい。解明しえたと思ったとき、
気がついてみればわれわれがわれわれの時代環境のなかで、
伝説の新しい型を『学問』という形で形成していることに
なるかもしれないからである。伝説も庶民が世界と関係するその絆なので
あるし、学問もわれわれが世界とかかわる関係の表現であって、
そこには本質的な違いはないからである。」
(「ハーメルンの笛吹き男-伝説とその世界」117ページ)

これって つまりまあこういうことじゃないだろうか。
 
人びとが語り継いでいる伝説ってものがあって、
それはなんらかの歴史的事件に基づいている可能性が高い。
その事件てなんだったのかについて考えるときは
つぎのことに気を付けなくっちゃいけない。
すなわちそのおおもとの歴史的事実ってのは
おおまかにいって2種類のヴェールを 何枚も何枚もかぶってる。
昔のものであればあるほどヴェールの枚数が多いのだが、
それをぜんぶ、ていねいにはがさなくちゃいけない。
まず1種類めは、
まず 当時の人びとがどんな社会でくらしてて、
どんなものの感じかた考えかたをしてたのか というヴェール。
2種類めは、
そんな当時の人びとがその事件を語り継いでいくうえで
よりわかりやすいようにより受け入れやすいように語りやすいように
「お話」としての一定のパターンてのに自然とはめていったわけで、
その「パターン」という名のヴェール。
これらをぜんぶわきまえたうえで1枚1枚はがしていかないと
歴史的事件は歴史的事件なんだけど、
ほんとのところとは全然ちがう歴史的事件にたどりついて
しまうかもしれない。
「なんとかお姫様の物語」は本当はAという実際に起こった事件が
元になった話なのかもしれないのに、
ヴェールのはがしかたをまちがえたり2枚も3枚もまちがえていっぺんに
はがしちゃったりすると
AじゃなくてD事件が元でした、という 誤った結論を
出してしまうおそれがある。
でもこの作業はけっこう難しい。
考察するわれわれ新しい時代の人間は
いろいろと知って頭がよくなってきちゃっているので、
「昔の人びとのものの考え方」
「昔の人びとが構築したお話としてのパターン」と
いう従来の古いヴェールのうえにまた
こんどは「学問」っていうヴェールを
自分でかぶせてしまっているかもしれない。
それが「この伝説の元になった事件てなんなのだろう」と考えるのの
さまたげになってしまうのかも。

・・・・


本屋で立ち読みしたときは、
ブリューゲルヒエロニムス・ボッシュの絵が
挿絵としていっぱい載っているのを見て、
もっと見たいとおもって買ってみただけだったが、
内容的にすごくおもしろかったし、感銘さえうけた。