BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『美女と野獣』-170515。

原題:BEAUTY AND THE BEAST
ビル・コンドン監督
2017年、米

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ディズニーだけあって 
あいもかわらず非のうちどころのない
「美」ってものを味わわせてくれる作品だった。
まったく、感嘆させられた。
人間の力でも、これほどまでに完璧なものを
作ろうと思えば作れるんだな。

だがまあ 内容について正直なとこいうと
これだったらわたしは
アナと雪の女王」のほうが
まだしも好きだったかもわからん。

美女と野獣」は、
とってもすてきだったけれど、
ほんのすこしでも自分のこととして考えられる部分というか
つまり共感しやすさみたいなものが 
なかった。
わたしはそうした不足感をまさに 
ディズニーランドやディズニーシーに
行ったときに、きまって感じるのだが。
それがイヤとか、悪いこととかおもうわけではないものの、
まあようするに、
「わー スゴイね!」
「わー きれいだね!」
「わー 華やかだね!」
っておもうんだけれど、
おもうんだけれど ただそれだけ、というか。
そこに体ごと飛び込んではいけないわけだ。決して。
ディズニーの世界ってのはわたしにとっては
ともすれば他人ごと になりやすいんだわな。
ディズニーが、完璧な夢を、完璧な美を
追求すればするほど、
それに触れるとき、わたしは
この不足感を自分のなかでつよめていくことだろう。
もちろん そんなのはわたし個人の問題で、
ほかのだれにとってもどうでもいいことなんだけれど。

あと、本作は、観たあとで
はっきりとした疑問点が意外にも いくつか残った。
いままで観たディズニー映画ではそういうことって
あんまりなかった気がするんだけどなあ。

・ガストンはその後どうなったのか。
・ベルの父のその後は?
・ベルは王子の哀しい事情をいつだれから聞かされたのか。 
 なんか気づいたときにはもう全部わかってるって感じだったが。
・王子の事情や彼の存在は、魔女の呪いによって、人々の記憶から
 消されてしまっていたようだが、呪いが解けて、人々のなかで
 存在が復活したいま、王子と民衆の関係はどうなっていくのか。
 まあこれは考えるだけ野暮ってものか。
・民衆にとって、王子はいったい誰なのか。
 どこの国の、なんという領土の、なんという王の子なのか。
 これも物語の本筋には関係ないことだとわかってはいるが
 すごく気になる。
・王子は今後 民衆から税金とか徴収するんだろうか(^^)
 王家なら税金とっていたはず、呪いをかけられる前までは。
 でも呪いのせいで民衆の記憶から王家が消えてしまってからは
 税金はとれなかっただろう。
 どうやって暮らしていたんだろう、呪いがかかっていた間。
 食料とか燃料の確保をどうやってしていたんだろう(^^)
 森から採ってきて適当にやっていたのかな。
 でもまあこれは完全に 夢ぶちこわしのケチをつけているだけ
 というかんじが、われながらする。けど気になる。
・ル・フウは、終盤で、
 王子の城に過去に来たことがあるようなことを
 言っていたが、そのあたりの事情が 
 自分が観ていたかぎりでは
 語られておらず、いっさいが謎だった。
 まえに来たことがあるってのは いったいなんでだ。
ヴィルヌーヴ村と王子の城の距離関係が、どうも不自然。
・ベルの父は 王子の城にもう一度たどりつくことができなかったのに 
 なぜガストンはああも苦しまずに城に行けたのか。
 ベルから奪った魔法の鏡は持っていたが、あれはナビ機能までは
 ないみたいだったしなあ。
・その点にかんしては、ル・フウも、
 ベルの父に案内をさせたときには城の存在を
 疑っていたのに、
 終盤で「まえにこの城に来たことがある」ようなことを
 言っていたのは、やはり
つじつまがあわないだろう。
 ベルの父についていったときは、
 城に行くのが面倒くさくなってきたから
 どうせ城なんかないだろうということにしたかった
 ・・・のかもしれないが、
 それはむしろガストンのほうの言い分で、
 ル・フウはそういう感じじゃなかった。
 観ていたかぎりでは、ル・フウはもう少し気のいい人間だ。
 城が本当にあるかどうかはともかくとしても、ベルの父に
 つきあってやろうくらいの気持ちは持ち続けていたように見えた。
 城があるってんなら(ガストンがベルを救出しに行きたがっているし、)
 行ってやってもいいんだけど、と考えていたということだ。
 しかるにル・フウはあとになって
 城に前にきたことがある的なことを言った。
 城に見覚えがあるというんなら、昔むかしの人の方向感覚は
 現代人とはぜんぜんちがうんだから、
 山道、けもの道でも、
 城へのルートや周辺の地形まで見覚えがあるもんじゃなかろうか。
 そもそもル・フウが心酔するガストンは
 猟師のようなこともしているみたいだったし。
 ガストンといっしょに行動するなかでル・フウの方向感覚も
 さぞかし磨かれてきたことだろう。
 なのになぜル・フウは 城に来てみてはじめて
 ここに来たことあるなあ、なんて言ったのかなとおもう。
 逆に言えば 城を知っているんであればなぜル・フウは
 率先して道を進み ベルの父を城に連れて行ってやらなかったのか。
 ガストンが城に到着できてしまうと
 ガストンとベルがくっついちゃうから
 それだとイヤだから、ってことか?
 うーーーーん。いや、弱いわな。それじゃ。おかしい。
 「城に来たことがある」自体が、誤訳だろうか?
 なんでだったんだろう。
 日本語吹き替えを観ればわかるかなあ?
・ベルが幼少期をすごしたパリのアパートの部屋に
 医師用の防疫マスクがおきっぱなしになっていたのが腑におちぬ。
 なにがあったのかしらないが、 
 患者の家で、マスクとらないだろ、医者は。
 でも母の死の真相を知りたいというベルの思いが
 あのアパートの部屋の幻影を作り上げた、ということならば、
 そこは夢と魔法の物語ってことで、
 まあ、目をつぶってもいい。
 でもペストなどが流行ったときに、ああいう鳥のクチバシ型の
 マスクが用いられていたなんてこと、
 欧米の子でも、大人に解説してもらわないともうわからない知識だと
 おもうのだが、ずいぶんマニアックな小道具 持ってきたなと感じた。
 もっとわかりやすく 過去の事情を説明しようとは思わなかったのかな。

 

あと、疑問というか、不満だった点もあった。


・ベルに、個性ってものがほとんどなかった。
 読書好きの美しい娘、というのはわかったが、
 もうすこし「風変り」感を実感させてくれるエピソードが欲しい。
 ベルの晩餐のミュージカルシーンと
 ラストの大団円の舞踏会シーンを
 それぞれ20秒くらいずつ削ってでも
 ベルの性格や人間性をもうちょっとだけ掘り下げる
 エピソードを散りばめていって欲しかった気がする。
エマ・ワトソンにはもうちょっとでいいから
 やる気ありげに演技をして欲しかった。
 「思慮深く心優しい性格」はかならずしも
 「無表情で声が小さい」という
 演技で表現するもんではないとおもう。
・王子がベルにやさしくなるタイミングが唐突すぎた。 
 バカがつくほど丁寧なストーリーテリングのくせに
 なんでそこだけそんなに性急なんだ。
・いろんな人がいる、いろんな愛のカタチがあるという
 現代の風潮を意識して、じつにきめこまかくそのへんの
 教育的配慮がなされているのを感じたが、
 さすがにこうまで いろいろ気を遣ってくれなくても、いい。
 ル・フウのダンスシーンとか。
 いや、べつにいいけど(^^)
 かえってディズニー側の基本的なスタンスが
 映画とは真逆です、ってことが強調されている気がして
 だいじょうぶなのこれ、って思っちゃったんだけど(^^)。
・エンディングのデュエットは、歌いかたが下品だった。
 とくに女声のほう。
 だれが歌っているのかしらないけど すくなくとも本編は
 そういうかんじの音楽性じゃなかったじゃないの、全然(^^)。
 なんか上質なフランスのオペレッタを観たあとにいきなり
 なんだろうな 
 和田アキ子かなんか聞かされるような気分だった。
 和田アキ子がわるいわけじゃないけどな(^^)


けど 本作は 楽しめたところもいっぱいあったな。
・ガストンの人気者っぷりが歌と踊りで表現される、
 酒場のミュージカルシーンはたのしかった。
 「お山の大将」感がすごくうまく描き出されていた。
・こまかな時代設定はよくわからないが、
 医師のマスクの形状からみて たぶん
 18世紀のフランスがベースかなというかんじが
 したのだが、当時の民衆のあいだにあった、
 特定の身分の人
 (未亡人、お嫁にいきおくれた女性、物乞い、精神病患者など)
 にたいする差別感情や、
 そうした人たちがすごく生きにくかった、という事情が
 それとなく、しかも案外シビアに表現されていて、
 おっ、と思った。
・ル・フウが歌がうまい。
・ガストンも歌がうまい。
・馬の「フィリップ」がかわいくておりこうさん。
ティーカップの「チップ」がカワイイ。
・時計と燭台のコンビの友情に泣けた。
・城の蔵書に感激するベルがかわいかった。
・ベルを愛しながらも解放してやったときの王子の表情が
 かなり泣けた。「オペラ座の怪人」のあのシーンみたいで。
・城の面々と民衆のバトルシーンは 工夫が凝らされていて
 すごくよかった。暴力をおさえて光と音で表現してたのが
 よかった。でも女は殴ってたけど(^^)
クラヴサンの鍵盤をマシンガンみたいに発射して
 戦うっての笑った。
・そういやクラヴサンに変身させられていた「マエストロ」は
 だから変身が解けたとき歯が何本か抜けてたのか。
 いや、あれはマエストロじゃなかったかな??
・ベルが、呪いが解けたときの王子の顔をみて、
 「あなたってこんなにイケメンだったのね!」じゃなくって、
 「野獣だったときのあなたの面影はどこに?」と
 いう表情をしたのが、わかっちゃいるが すてきだった。
 王子の顔に野獣とおなじ碧眼がかがやいているのを見て
 「あなたなのね」と安堵の表情をうかべたのが
 じつにドラマチック。


いろいろとケチはつけたが
良いところもたくさんあった映画だった。

しかしながら、こうしてふりかえってみて、
今いちばんやっぱりここは、と
残念におもうのは、
「ベルに個性ってものが感じられなかった」
というとこだった。
わたしは、『アナと雪の女王』(2013年)では
エルサにけっこう、個性を感じた。
心の通ったひとりの女の子、ってかんじがして、
いまでもエルサのことを、
「こういう子だった」と思いだせる。
そして、エルサにかなり強く共感した。
でも、ベルには、わたしはそういうのがない。
だから、その意味で『アナと雪の女王』のほうが
まだしもよかった、と感じるのだとおもう。

ベルが、こう、もうちょっとなー。
覇気の感じられる子だとよかったんだけど(^^)